「何しとんのですか!!!」

酷く呼吸を乱した光が教室に入ってきた。

「光くん!!ごめっ、ごめんっ!これは、違うねん…私…」

俺が浮気しとると勘違いしてるかも、と思ったのか
必死で梓捺が押し倒された状態で弁解しようとしとる。

…嗚咽混じりでうまく喋れてへんのに。

「如月先輩分かっとる。それに悪いんは俺や、…俺が気づくん遅かったんや………もう、二度と泣かせたくない思っとったんに…」

部長と別れたあと、始めて部活に来たあの日、
(もう二度とこの人の涙は見たくない。)
そう思ったんや……。

「んー?財前、部室行け言うたよな。………こっちくんのちょっと早すぎるんちゃうか?」

今まで黙って睨むような視線でこっちを向いとった部長が口を開いた。
相変わらず梓捺を押し倒したままの姿勢で。

「……遅すぎたくらいっすわ。はよ、どいてください!!」

二人のもとに駆け寄り、精一杯の力で蔵ノ介を引き剥がした。
蔵ノ介はその勢いで数本下がった。梓捺は蔵ノ介が離れたあと、光の背後に回り、光のシャツをギュッと握った。


「痛いなぁ、先輩に何しとんねん……」

光が掴んだ部分を擦りながらおどけた口調で言う。……顔は笑っていないまま。
いつもの蔵ノ介と随分違う…普段は仮面を被っているかのような、そんな大きな違い。だが、怖くはなかった。

好きなヤツの前じゃ、何も怖いことあらへん。

「部長こそ、何しとんねん。如月先輩は、あんたのモノじゃないやろ!!」
「何言うてんねん。アイツは俺のもんやで?…俺がアイツを好きな限り」
「私は…私は蔵ノ介が大っっっ嫌いや!!今回の件で、もう取り返しつかん程、嫌いになった!だから、もう近寄らんといて!」

光のシャツを握る力が強くなる。

「………せわしいなぁ……」
「如月先輩も嫌がっとるんや!もうこんな事するの止めたって下さい!」
「せわしい言うとるやろ!!!」

バン!!と、蔵ノ介が近くの机を思いっきり蹴る。

「なんで俺の言うとおりにせんのや。たかが他の女にキスしたくらいで別れるとか、アホか」
「…!最低や!いつも『お前だけにしかしたことはない』とか、言うとったやないか!その時のことだって、誤解だって言うとったのに、ホントにしとったんやな!一時でもあんたに惚れた私が馬鹿やったわ!」
「せやな、お前は本当に馬鹿や。馬鹿は馬鹿らしく、俺に従っとればええんや。財前のとこおったってしょーもないわ。」

梓捺は光のシャツから手を離し、顔を少し伏せながら光の前に行った。

「……蔵ノ介に、何がわかんの?………光くんの、何が分かんねん!!蔵ノ介より優しいし、一緒にいて楽しいし、そして何より……私のこと…ちゃんと大切に想ってくれてる!!」

伏せた顔を上げて声を張って叫ぶように吐き出した。

「如月先輩……」
「こんだけ言うても、まだ分からんか。」

はぁ、と溜息を吐いた蔵ノ介は梓捺の手を思いっきり掴んだ。

「いった………ちょ!は、離してってば!」

引き剥がそうと光は梓捺の空いてる方の腕を掴みながら叫んだ。

「部長!ええ加減に…」

「もう止めぇ言うたやろ白石ぃい!!!!」

梓捺の手を掴んでいた蔵ノ介が何者かに殴られて後方に吹き飛ぶ
梓捺はその衝撃で蔵ノ介の手の力が緩んだ一瞬の隙に財前に飛びついた。

「まだ諦めとらんかったんか!このアホ!!」

殴り込んで入ってきたのは、忍足謙也だった。

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「謙也さんどうして……」
「財前が慌てる時は大体梓捺が絡んどるからな、予想はついた。せやから、荷物は部室に置いて、手当り次第探し回ったんや。そしたら、怒鳴り声が聞こえてきて、急いで向かったらこの有様。」

壁際には眉間にシワを寄せたまま座り込んでる蔵ノ介。
教室の中央部には光に縋って泣きじゃくる梓捺。
そして#名前を#抱きしめている光。

それぞれを見たあとに、はぁ、と肩を落とす謙也。

「悪いな、光・梓捺。俺の不始末や。さんざん言って聞かせたんやけどな…」
「いや、助けてもらっただけ、有難いっす。いつか必ず恩返しするんで」
「いやいや、俺の不注意やったんやし、恩返しなんてええよ!……今は取り敢えず梓捺連れてどっか行ってこい。……後始末は俺がやっとく」

そう言って謙也は蔵ノ介にサッと視線を向ける。
蔵ノ介は目線を合わせなかった。

「……すんません、頼んますわ。」
「おう!そっちこそ頼んだで!俺にとっても梓捺は、大切な……………大切な親友やから!」

そう言ってはにかむ謙也は何処か悲しい顔をしていたが、光は触れないでおいた。

(梓捺をこの場から出すのが先や。)

コクリと、光は頷き梓捺の震える肩に手をそえて、目を合わせる位置まで屈む。

「如月先輩動けますか?」
「………ん、だいじょぶ……」

薄く笑う梓捺の顔からは疲れが見えた。
光は梓捺の肩に手を回して支えながら、その場を後にした。

背後の教室からは、怒鳴り声が響きわたっていた。

戦線離脱
(後は任せました。)

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んー……こら、長編になる予感(笑)
色々なフラグを広い忘れとる(;^ω^)。
もうしばし、お付き合いくださいませ!


遊詩.