「うーん……」
「どうしたの?そんなに悩んで…あぁー部活ね!」
新学期が始まって数日後。部活動の選択期間が終わりに近づいてきていた。進路を考えると部活動をしていたほうがいいのだが、あいにく趣味もないので私は決めれずにいた。
「何部にしよか迷ってんのやわ…眞柚は何部にするん?」
「バレー部や!」
「眞柚、小学生のころからバレーしとるもんな!」
そんな話をしていると、「なんの話しとんのー?」と謙也と蔵ノ介が駆け寄ってきた。
「梓捺がまだ部活動決めてへんのや」
「蔵ノ介と謙ちゃんは何部なん?」
二人は顔を見合わせると
「テニス部や!」
と、謙也が満面の笑みで言った。
「バレーとテニスかぁ…スポーツは苦手やもんなぁ…」
「マネージャーっていう手もあるで?」
と、蔵ノ介。
「マネージャーかぁ…まぁ、まだ時間はあるし色々考えとくわ!」
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
放課後、謙也と蔵ノ介はテニス部の見学に行っていた。
「やっぱ高校生のテニスは違うなぁ!」
「せやな!…まぁ、無駄の多い先輩もおるけど」
練習風景を見ていると一人の先輩が近づいてきた。蔵ノ介はいつもと変わらない表情をしているが、俺は内心、さっきのが聞こえたのかと焦っていた。
「おい、1年!」
「あ、はい」
恐る恐る返答をするとその先輩は笑顔を浮かべ更に近づいてきた。
「二人ともテニス部に入るんか?」
「はい!お世話になります!」
「お世話になります」
軽く会釈をする。
「おん、よろしゅうな!部長の河北や!」
部長か。怒ると恐そうだが実際に話すと優しかった。
「えとな、さっそく二人に頼みがあんのやけど…」
「頼み?」
「なんですか?」
嫌な予感がするなぁ、なんて思いながらも聞いてみる。断ったからといって入部を拒否したりする人ではないだろう。
構えてみたが、実際に先輩の言ってきた頼みは意外なものだった。
「マネージャー、勧誘してくれへんか?」
「!?」
「…ま、マネージャーですか?」
「せや。マネージャー1人だけおるんやけど、3年やさかい、今年で引退なんや。今から2年入れるわけにもいかんし…頼むわ!」
「わ、分かりました。どんな人がいいとかありますか?」
「明るい女の子やったら、誰でもええわ!」
「はぁ…(女の子っていうのは、つっこんでええんやろか…)」
「ほな、頼んだで!!」
風のように去っていく先輩を見届ける。会話の途中から黙りこんだ隣の蔵ノ介に話しかける。
「どないしたん?急にしゃべらんなったな」
「謙也…俺、マネージャーの候補いいやつ考えついたで?」
あぁ、なるほどな。
さすが、親友なだけはあるわ。
「奇遇やな、俺も考えとったわ。」
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
翌日の朝。
「テニス部のマネージャー?」
「おん!な、頼むわ!」
朝、学校に来て蔵ノ介からの第一声が『テニス部のマネージャーせぇへんか!?』だった。謙也も一緒に来てたらしく、二人して私の席を囲んでいる。隣は壁で後ろには机があるのでリンチされてる気分だ。
「せやけど、テニスよう分からんし…」
「明るい女の子やったら構わんて先輩言いよったで!」
「そうなんか…」
なんの趣味もない私には丁度良いのかなと、思った。それに、テニス部だったら蔵ノ介と謙ちゃんがいる。
「わかった!マネージャー引き受けたるわ!」
「よっしゃ!これで部活がもっと楽しくなるわ!なっ、蔵ノ介!」
音がするほど蔵ノ介の腕を叩く謙也に
「痛いわアホ!」
と、ツッコミをいれる蔵ノ介。
マネージャーという仕事に対しての緊張感がさっそく薄れた気がした。
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
部室前
「梓捺ちゃんおつかれ!」
「お疲れさまです!」
部活動初日・部活後。男子テニス部の3年生でマネージャーをしているミキ先輩(部長の彼女らしい。)。今日始めて話したが、とても優しく、仕事も一つ一つ丁寧に教えてくれた。そしてすごくかわいい。
あ、だからマネージャーの用件が『女の子』なのか。
「一日目なのにすごく助かった!ありがとね!」
「いえ!普通のことをしたまでです!」
微笑んだミキ先輩を見ると女なのにかわいすぎて、下を向く。
「ミキー!帰るぞー!」
「あ、はーい!…じゃあね!」
ミキ先輩はそう言うと、手を振り部長の方へ掛けていった。
梓捺も手を振りかえし、思ったことが声に出た。
「彼氏欲しいなぁ…」
今まで誰かを好きになったことがなかった。好かれたことはあっても、中途半端な気持ちで付き合いたくなくて、断ってきた。
決して、恋愛をしたくないわけではない。彼氏は欲しいけど、まず『好き』という気持ちが分からない。もしかしたら、好きな人は今までにいたかもしれない。まだいないかもしれない。今、いるのかもしれない。
恋愛について考えると毎回こんなかんじで、自分がわからなくなる。
「よく、わからないなぁ…」
「なーにがっ?」
「うわぁっ!眞柚!?」
「やっほ!部活終わったから来てみたんや!終わるの同じ時間なんやね!」
後ろから抱きついてきた眞柚を振りほどく。すると同じタイミングで部室から謙也と蔵ノ介がでてきた。
「二人で最後?」
「おん。」
ポケットから鍵を取りだし、部室の鍵を閉める。
「私、鍵返してくる!みんなまた明日ね!」
「俺も付いていくで」
地面に置いていた梓捺の荷物を持ち上げて蔵ノ介が言った。
「ええよ、気にせんで!疲れとるやろ?」
「こんな暗い中、女の子一人でかえされへんで?」
「けど…」
「ええんやて。ほな、眞柚ちゃん、謙也!また明日な!」
「おう!」
「また明日なー!」
と、謙也と眞柚は帰って行った。
「梓捺、鍵かえしに行こか?」
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+
「ほんまありがとうな?蔵ノ介」
「気にせんでええっちゅーに…」
本当に感謝していた。辺りはずっと閑静な住宅街が続いているため、夜道は危険なのだと言うことは子供でもわかる。一人だったらあまりの怖さに親をよんでいたかもしれない。
「ほな、帰るで?…夜道は危ないから手、貸しぃ」
「お、おん。」
差し伸べられた自分よりひとまわりも、ふたまわりも大きな手にそっと自分の掌を重ねる。
その瞬間、自分の心拍が早まったのを梓捺は気づかない。
鈍 感
(自分にも、周りにも)
+-+-+-+-+-+おまけ+-+-+-+-+-+
「あ、そういえばさ」
「どないしたん?」
少し気になることがあった。
「謙ちゃんと眞柚って仲エエよな!なんで付き合わへんのやろ?」
結構な頻度で二人は一緒にいるし、毎日のように二人で帰っているらしい。いっそ付き合ってしまえばいいのにと考えていた。が、
「なに言うとんねん」
と、呆れた目線を送られる。
「?なんかあかんこというたか?」
「二人ならもう付きおうとるで?」
もう付き合っていたらしい。
「ええっ!?まだ新学期始まって一ヶ月もたってへんのに!?」
「…自分、さっきいった言葉わすれとるやろ?」
「?」
「ま、さすがはスピードスターや、ってところやな」
「すぴーどすたー?」
「あぁ、こっちのはなしや。」
「??」
*+*+*+*+*+*+*+*+*
蔵が好きすぎて最近頭がまわりません(笑)
てか、メイト行ったら四天宝寺のノートだけ売り切れやったんやけど!こんにゃろ!
遊詩
完