「なぁ、蔵には好きな人とかおらんの?」

とある休み時間。席が隣の梓捺と話していたときに、彼女がそう唐突に質問してきた。

好きな人は、いる。

俺の隣の席の彼女…梓捺のことが好きだった。
初めて話したときから、明るくて控えめで優しい梓捺のことが好きだった。

だけど、ここで「お前が好きや」とは言えなかった。

そんな勇気は俺には無いし、今のままの関係で十分だった。

俺はとりあえず、嘘は吐きたくないから

「おるでー…好きなやつ」

と、平静を装って言った。

「そうなん!?誰か教えてくれへんの?」
「そんなもん教えれるか、…自分は好きなやつおるんか?」

そう聞いてみると、梓捺の動きが一瞬止まった。そして瞬く間に赤くなって小さな声で

「お、おるで…」

と、返してきた。「教えてくれへんのか?」と聞こうとしたその時、

「白石ぃー!ちょっとここわからへんのやけど…って、あ!すまん!如月さんと話よったんか!」
「あ、だっ、大丈夫!たいした話じゃなかったし」

一気に挙動不審になった梓捺を見て、理解した。

(謙也が好きなんか。)

謙也はどう思っとるかしらんけど、梓捺が謙也を好きになる理由は何となく分かった。

謙也とは長い付き合いや、コイツがいかにいいやつかくらい分かっとる。

謙也が自分の席に戻ったあと確認をとることにした。

「梓捺、謙也のことやろ?好きなやつって」
「!…わ、分かっちゃった?」
「バレバレや」

少し笑って、「頑張りや」と、付け足した。

俺は梓捺を諦めようと思った。
傷む自分の心を無視して。

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諦めてから1ヵ月経った。
放課後に梓捺に呼び出された。

なんやろ?と、思いつつ屋上に向かうと、梓捺は先に着いていた  。

「なんや?話って」
「あんな、私、謙也くんと付き合うことになってん」
「!!………そか、よかったやん」

素直に…喜べなかった。喜びたいのに、本当の自分がそれを拒絶してるのが分かった。

「…蔵、喜んでくれへんの?」

さっきとは一変して悲しそうな顔をしている梓捺を見て、余計悲しみがふえた。

そして、それは許容を越えて溢れだした。

「喜べるわけ…ないやろ?」

涙をこらえて、彼女の華奢な肩を掴んで見つめる。

「前に、俺には好きな人おるって話したやろ…?」
「う、うん…」
「お前のことやったんや!!…でも、お前は謙也が好きやって言うから……俺は諦めようとしたんや。」
「うん…」
「でも!…諦めようって思う度にどんどん梓捺のことを好きになってまう!…すまん、もう…俺どうしたらええのか分からんなってしもうたわ」

膝をついた俺を抱き締めてくれる梓捺。


もう、優しくせんといてな…


「ごめん…蔵は私の好きな人に気づいてくれたのに、私は蔵の気持ちに気づけなかった…」

謝らんといてぇな…

「梓捺、すまん」
「え…っ!?」

俺は無理矢理彼女の唇を奪った。
彼女はただただ驚いていたようで、されるがままやった。

「く、ら…?」
「俺は最低な男や。…もう、友達は終いやな。」
「そ、んなぁっ!」
「さいなら、謙也と仲ような。別れるようなことあったら許さへんで?…如月さん」

俺は笑って、その場を去った。


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「なんや、珍しいなぁーお前が部活来るの最後やなんて」
準備運動中の謙也に声をかけられて一瞬顔がひきつりそうになった。同時に申し訳ない気持ちで一杯になった。

だが、いつものように振るまった。

「ちょっと、友達に呼び出されてな」
「そか」

あのあと、謙也にあの放課後のことは知られることはなかった。

もしかしたら、知ってたのかもしれないが

あの日の事を知ったとしても謙也は「そうか」としか言わないんだろう

それは謙也がヒドイやつだと言う意味じゃなく、

アイツは人の気持ちがわかるって話だ。

下手したら謝ってくるかもしれへん

そう思ったところでもうこの事は考えないでおこうと首をふった。

相変わらず如月さんは話しかけてくるが、最低限の返事をして避けるようにした。俺には…親友の謙也の幸せと、友達だった如月さんの幸せのほうが大事だ。

俺はもう充分幸せやったから。

友達が終わる瞬間
(俺の運が悪かっただけや)

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久しぶりにかいた短編が悲恋(笑)

蔵は友情を優先すると思う!


遊詩.