「なんか言いたいことありそうな感じだねぇ黒りんた」
「…さっきの壁といいちょっと魔法をかじったくらいで分かっちまうことが守りになるはずねぇだろ。仕掛けを見破るには、仕掛けた以上の力が要る。それも魔法とやらは使っちゃいねぇみてぇだしな。その上二人共そうだときた」
「いやいや、ないない。それはない」
「オレたちのこと買いかぶりすぎだよぅ」
「…嘘くせぇ」

けっ、と二人を睨み付け、先に前を歩いて行く黒鋼と少し距離を置いたところでファイが口を開く。

「…んとに。黒様っていらないトコばっか見てるんだから」
「ほんとにね。魔力が無くたって私たちのことに気付けるくらいだもん」

黒りんには敵わないよ、なんて苦笑する彼女にファイもまたうんと困ったような表情を浮かべていた。



「わー、でっかーい。やっぱりサクラの国の遺跡と一緒?」
「そうみたい。遺跡には発掘隊の人達がたくさんいて…みんな良い人ばかりだったんだけど。中でも色んな国を巡っているっていう考古学者の先生がとても優しい人だったの。遺跡に遊びに行こうとするといつも兄様に叱られてたんです」
「発掘途中だし危ないからかなぁ」
「ええ、それもあったんですけど…どうしてだったんだろう」

思い出せそうで思い出せないような、そんな複雑な表情をするサクラの横顔を見ては、小狼は泣き出しそうなくらいの切ない顔をして足元に視線を落とした。

「なんかちょっと不思議な感じだねこの遺跡。道が広かったりせまかったり。…あ!このベンチみたいなのおっきい!すごーい」
「これ、時計かな」
「ちっちゃいねー。あり?ちっちゃすぎ?サクラちゃんの記憶だから強く印象に残ってるところが強調されてるのかもー」

サクラもその小さな時計を見て少しピンとくるところがあったようで、興味深そうにそれを見つめる。
しかし、そんな彼女以上にその時計を見て表情を変えたのは他でもない小狼だった。

「行こう、サクラ」
「あ、はい」

モコナはぴょいとサクラの掌に飛び乗り、先に進むように促す。
その空間から出て少し進むと地下へと続く階段があり、サクラたちはそれを下って行った。
一行が行き着いた場所は先程までとは一変したこれと言って何もない広々とした所。
けれども一つだけ大きな特徴があり、床一面にサクラの記憶の羽根に描かれていたものと同じようなものがそこに印されている。

「羽根の波動、この下から感じる」
「…何だ!?」

モコナが口にした直後、突然床が大きな音と共に抜け落ちた。
抜け落ちて出来た巨大な穴を覗き込むと、中はただただ真っ暗で何も見えない。
その先に何があるのかも分からないくらい奥深く、容易に入っていくことも中々出来そうになかった。

「真っ暗だねぇ。この下、何があるかサクラちゃん覚えてる?」
「いいえ」
「でも、サクラの羽根の波動ここから感じる」

どうしようかと考えていると、下を見下ろし一歩前に歩みでる小狼。

「小狼君!?」
「行きます」
「何があるか分からないのに!わたしが行く!」
「姫は待っていて下さい」
「でも!」
「おれが行きます」

不安げな表情で小狼を引き留めようとするサクラ。
そんな彼女に向けて小狼は「大丈夫」とでも言うかのように優しい笑みを見せた。

「…どうして?どうしてそんなにまでしてわたしの羽根を探してくれるの?」

その彼女の言葉に何も返さず、スッと自分の腕を握っていたサクラの手を離す。
何を言っても止められない小狼を見守ることだけしかできない自分にサクラはもどかしさも同時に覚える。
けれどやはり彼には無茶をしてほしくない。
それはどうしても拭うことの出来ない思いだった。

「姫をお願いします」
「この世界にはあの蝙蝠の刀のヤツはいねぇようだからな。だったら用はねぇ。羽根が手に入りゃ白まんじゅうは次の世界へ行くだろ」
「黒鋼さん」
「行くぞ」
「はい!」

そして有無を言わさず二人は穴の中へ飛び込んで行った。

「小狼君!黒鋼さん!」

サクラが声をあげた時にはもう既に手遅れで、見えない所にまで小狼達は行ってしまっている。
後を追い掛けようと自分も中に入ろうとするサクラの肩を、ファイは後ろに引き寄せた。

「ったく、困ったお父さん達だねぇ」
「わたし…わたし、何も出来ない……」
「出来るよ。小狼と黒鋼が帰ってくるのを待ってあげられるよ」

落ち込むサクラを励ますモコナに彼女は頬を寄せて「…うん」と笑みを浮かべる。

「さ、じゃあ何かして待ってよっか!みんなで元気が出ること考えよう!」
「モコナ名前にさんせーい!」
「オレもー。じゃあ、次の国行ったらどんな買い物しようかとかそーいうの考えて待ってよっかー」
「はい」

サクラの普段通りの暖かい顔を見て、名前たちはよかったと心から安心したのだった─────







「ちょっとなにこれ!?空間移動…?」
「っぽいねー」

あれからかなり長い間話して小狼と黒鋼を待っていたが、突然なんの前触れもなく三人とモコナを不思議なものが取り囲み、今まで居た場所からほかの場所へと移した。

「小狼君!!」

名前たちと同じ移動先に小狼と黒鋼も着いていたようで、サクラは怪我をしていた小狼の方へと駆け寄る。

「…サクラ姫!」

小狼が手にしていた記憶の羽根が、彼女の中へ吸い込まれていった。

「小狼君怪我!!」
「小狼手当てしなきゃ!」
「その前に早く次の世界へ移動を!」
「私が小狼君の手当てを出来るだけ進めるからモコナは移動する準備をして!」

名前の言葉にファイは眉を潜めたが今はそんな場合ではない。
後方から図書館の人達が追い掛けて来ていた。

「図書館の人達が来る!早く!」
「うん!…あれ?だめ!魔方陣が出ない!!」
「ふーん。図書館から本を盗んで逃げたり出来ないように移動魔法に対する防除魔法が働いてるんだ」

次元移動が出来ないとなると後は必死に逃げるしかない。
黒鋼は逃げるために、眠ってしまったサクラを背負い名前も一時的に小狼の手当てを中断した。

「本を盗んだのはとっくにバレてる。白まんじゅうが移動出来る所まで逃げるしかねぇだろ」
「はい!」

図書館から逃げ出すことを決意し走り出す四人だが、そのすぐ先には番犬が立ち塞がっていた…



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