「なんか面白そうな本ないかなー」
「そ…そうですね」
「あ、これとか面白そうだよ」
「嘘くせぇ」
「どこがー?」
「その顔がだよ」
「えー、満面笑顔なのにー。ほら、黒たんも笑顔」

ファイは黒鋼の頬を左右に引っ張った。
その様子を見ていた名前や小狼やサクラは(被害を被らないように)そそくさとその場から離れる。

「わー、嘘くさーい」
「…白まんじゅう、刀出せ」
「だめだよー、刀なんか振り回したら。図書館から追い出されちゃう」
「だったら余計な茶々いれんな!!」

思い切り怒鳴る黒鋼をファイはまた面白がっていた。

「でも、まだ図書館が開いてる時間なのに良いのかな…」
「夜の方がもっと警備が厳しくなるでしょう。開館中ならあちこち歩いてても怪しまれません」
「まずい所に入っちゃっても“迷ったんです”とか言えるしねー」
「?モコナ何か感じてるの?」
「うん。小狼、右行って」
「うん」
「次左。……止まって。うん、この辺りが一番強い。サクラの羽根の波動」

サクラの羽根の波動を感じるとモコナが言った場所にはこれと言って特に目立ったものも無く、他と何ら変わらない本棚が並べられていただけだった。
しかし黒鋼やサクラや小狼が口々に何もないと言うなかで、名前とファイはそこにあった壁に大きな力を感じ取り手で触り確認する。

「ファイ、これ…」
「うん。これ魔法壁だね。黒っちこの本棚こっちに動かしてー」
「ああ?なんで俺が。めんどくせー」
「お願いーおとーさん」
「あれ、オレの声」
「しょうがないなぁ、かーさんの頼みなら」
「白まんじゅう…」
「ささ、その怒りを本棚にー」
「くっそー!」

ファイの言葉の通り、怒りを思う存分その壁本棚に向けてぶつける黒鋼。
大きくて広い本棚がみるみると動いていくのを見て名前たちは「おー」と感心していた。

「洞窟…本当に壁の向こうに何かあったんですね」
「この本棚とこの本棚で魔法壁を作ってたんだよー。だから位置を動かすと魔法がズレて壁の向こうが現れる。ね、名前ちゃん」

彼の言葉に名前がコクンと頷くと、凄いと感嘆するサクラ。

「んー、ちょっとでも魔法の勉強したことあるなら分かるよー」
「そんなに難しいことじゃないもんね」
「ねー」

相変わらず笑顔を崩さない二人を余計に黒鋼は訝しむような顔をしていた。
それに気付いた名前が彼に笑顔を向けると、黒鋼は「チッ」と舌打ちして彼女から目を反らす。

(うわ絶対怪しまれてるー…)

冷や汗を流しつつまた平静を上手く装い何事もなかったかのように話を次の話題へと移した。

「あー、でも魔法壁動かすときっと感知されちゃうよね?図書館の人達に」
「だろうねー。もしそうなったら守備機能とやらが来ちゃうかも」
「兎にも角にも入ろう、この中に」
「はい」

小狼を先頭に、皆は少しずつその洞窟の先に歩を進めていく。
その頃先程図書館の扉前に現れた番犬たちは、案の定魔法壁が動いたのを感知して一行の元へと向かい始めたのだった。



「国宝だとか言ってた割には入り口の仕掛け以外はなんもねぇのかよ」
「そんなワケないでしょー。…ほら、さっそく登場ー」
「思ってた以上に大きいんだけど」

あらら、と言い名前は服の内側から護身刀を取り出した。

「お前まだそんなもん持ってたのか」
「当たり前でしょ。形見なんだもの。それにこれ有り得ないくらい切れ味良いし」

と、そうしている内に目の前に立ちはだかる巨大な蛇のような生き物が名前たちを襲い掛かる。

「姫、下がっていて下さい」
「は、はい」
「名前ちゃんもねー」
「大丈夫大丈夫。全然余裕よこれくらい」

サッサッと素早く攻撃を交わす彼女の様子を見てファイは大丈夫だと確信し、一先ずここは何とかなりそうだと胸を撫で下ろした。

「名前ちゃんも小狼君もかっこいいー!ぴゅー。あ、今ちょっと口笛っぽい音出てなかったー?ね、ね、黒たんってばぁ」
「ちっとはおまえも手ぇ出せ!」
「やー、小狼君と黒様が対応してくれれば十分かなーっと。名前ちゃんは怪我しない程度にー。無理しないでほしいしー。ぴーっ、ぴゅー」
「なんだか敵の数さっきから変わってないような気がする。再生してるのかな?」
「わー、ほんとだー。ピンチっぽーい」
「走って!!」

小狼がサクラの手を取り駆け出すと、それに続いて名前たちも全速力で走り出す。
後ろから次々と追い掛けてくる巨大な蛇たちを交わしつつ、皆はその先を目指して走り続ける。

「まあ相手するより逃げちゃったほうが早いよねぇ。キリがないっぽいしー」
「モコナ!」
「うん!サクラの羽根に近付いてるよ!」

走り続けた先に、何やら不思議な空間があった。
すぐ後ろには蛇たちが襲ってきているので前進する他に道はなく、皆はその空間の中に逃げ込んだ。
そして次の瞬間に目を開けると、視界に広がったのは見たことのない場所で、もちろん先程の洞窟とも全く違った雰囲気の場所になっていることに名前は酷く驚嘆する。
もしかしたらと思いファイを見ると、どうやら彼も気付いたらしく、首を縦に振った。

「玖楼国の遺跡!?」
「玖楼国って小狼とサクラがいた国だよね」
「ええ…」
「玖楼国に戻って来たのか?」
「モコナ移動してないよ」
「でしょうね。ここ、まだレコルト国だもの」

名前の言葉にファイ以外の全員が彼女に驚きの表情を向けた。

「これは“記憶”だよ。“記憶の本”の中にある記憶。あの本はサクラちゃんの羽根の力で出来てる。だから本を守る為の仕掛けもサクラちゃんの記憶で出来てるんだよー」
「二人とも凄い!良く分かったね!」
「んー。これも魔法の一種だからねぇ。ちょっと勉強してれば、ね」
「取り敢えずこの砂漠進んで行こっか。何もないみたいだけど」
「だねー」

こうしてサクラの記憶の中の玖楼国を探索し、羽根を求めて彼らは歩き始めたのだった。



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