「サクラ姫の羽根!どこにあるんですか!?」

テーブルの上に置かれた紙を見ては小狼は目を見開いた。
そこに描かれていたのは正しくサクラの羽根である。

「ん。それも調べて来たよー」
「中央図書館だそうです」
「それはさっきの図書館とは…」
「違うの」
「この国で一番大きい図書館でね、ちょっと大変な感じなんだよー」

ファイの言葉に小狼は眉を顰めた。
彼の言う「大変」とは一体どういうことなのか。

けれど小狼が何であろうとその図書館に向かうと答える事は皆には予想ができていた。

「遠いんですか?」
「乗り物に乗って移動しなきゃいけないんですって」
「何日もかかるんですか?」
「そんな事はないみたいなんだけど」
「だったら何が大変なんだよ」

つい先ほどまで黙っていた黒鋼がついに口を開く。
“大変”なことについて何も言わないことにとうとう痺れを切らしたらしい。
そしてそれに対し穏やかな口調でファイがこう説明した。

「なんかね、貴重な本ばっかりある図書館で──」
「盗もうとするのとかもいるんだって。だから悪いひとが悪いことしないようにすごい番犬さんがいるんだって」







「うわーお空飛んでるー」
「これも魔術で飛んでるんだねぇ」
「すごいです」
「でも本当にどこでも魔術ばっかりだね、この国」
「ねー、街中歩いてても魔法魔法魔法って感じ。でも名前ちゃん…まだっぽいー?」
「全然」

ガクンと名前が肩を落とすと、向かい側に座るサクラがぽんぽんと優しく名前の肩を叩いてきた。
「?」と頭上に疑問符を浮かべていると、「まだまだ大丈夫だよ」なんて笑顔を浮かべるサクラ姫。
不思議なことに、それだけで何だか気持ちが軽くなれた気がする。

「ありがとう。でも、まぁ。もしかしたらこの国じゃないって可能性もあるんだもんねぇ…今こうして電車でたくさん長い距離を移動してるし始めに着いた街にもそんなに強い魔力は感じなかったし、この国にはいないのかも」

惜しいなー、と苦笑する。
窓の外を見ればあちらこちらに魔法を使っている人や魔法で出来た物が多く見られるのに目的の人は一向に見つけられそうにない。

今ある願い事の一つがもしかしたら叶うかもしれないという希望は、段々淡くなっていった。

「それにしてもこの乗り物凄く豪華だよね、内装とか」
「座席も色々あるらしいんだけどお金あんまりないからー」
「ごめんねぇ、おとーさん甲斐性がなくてー。その上飲んだくれでー」
「うわーオレの声とそっくりー」

ファイがそう言うとモコナは嬉しくなったのか、一層笑顔をきらつかせて名前の頭にぴょんと飛び乗り熱演し始める。

「ファイかーさん!お父さん短気で怖いけどいいひとよ!」
「お酒ばっかり飲んでて全然働かないけどお父さんはいいひとよファイかーさん!」
「ファイかーさん!おれ父さんの分まで働くよ!黒鋼とーさんの分まで!!」

「黒鋼とーさん」とモコナが言った瞬間の黒鋼の表情は一瞬にして激変した。
対する小狼の表情には危機感と焦燥感が表れていて硬直してしまう。
その様子を笑顔で見守る名前たち。

「きゃー!」

右手で黒鋼に掴まれていて身動きの取れなくなったモコナは名前とファイに助けを求めたが、どう見てもモコナが楽しんでるようにしか見えなかったので二人は顔を見合わせてやはり見守る事にした。

「あっ、名前ちゃんさぁ」
「ん?」
「さっきの図書館で本読んでたでしょう」
「うん」
「あのとき片手でもう一冊本持ってたけどあれって何ー?表紙からして記憶の本とは違うみたいだったけどー」
「あー、あれね。ファイ気づいてたんだ」
「気づいちゃったよー。でさー、あの本て何が書かれてたの?」
「あれは…秘密!」

にっこりと笑顔を自分に向けてくる名前。
何かあるに違いないと察したファイは、彼女が話してくれないことで余計にあの本の内容が気になってしまう。
少し押して見れば教えてくれるかもしれないと考えたファイはそこでは食い下がらなかった。

「なんか大事な事ー?」
「大事」
「どうしても教えてくれないのー?」
「まだだめ。でもすぐに話すよ」
「じゃあ待つとしますかー」

ファイはそう言い再び背もたれに背中を預けた。
気になるなーなんて思っていると、隣に座る彼女がこちらを向きふふっとまたも笑顔を見せるものだからやはりどんどん気になっていくあの本の内容。

「色々ちゃんと考えてから言うからね」
「何をー?」
「それは秘密」
「やっぱりー」

名前はファイの横顔を見つめる。

こうしている時、彼は本当に楽しそうだ。
そしてそんな彼を見ている自分も心から楽しいと思える。

前の図書館で見つけたあの本は、本当は何よりも先に名前の目に留まった本だった。
それだけ心配なことだったのだろう。
ただ、自分がそこでどうこうしたことで何か変わるとも思えないが、ほんのちょっとでも、たった一瞬でもいいから変えられたらいいと思う。
背中を預けてもらえるような、少しでも信頼されるような、そんな風になりたいというのが本心だった。

(どうにかして丁度いい言葉見つけないと…)

名前は腰を深くかけては、頭の中でたくさんの言葉を思い浮かべていた。



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