「人は何故出来ない事をやろうとするのかしら。飛王(あの人)は不可能を可能にしようとして、そして願ってる。終わってしまった夢をもう一度、と」

ある女がそう言った。
もう一人の眠っている『小狼』を見つめてはそっと目を閉じ、まるで何かを想っているかのような、そんな口調である。

そしてさらにもう一人男が別室にいた。
片手にはグラスを持ち、目の前にある大きな鏡に映る者達を見ると彼は口角を上げてこう口にする。

「不可能だと言ったな、クロウ・リード。それでも我が夢は必ず叶える。どれだけの血が流れ、どれだけの犠牲を払っても。その為にあの遺跡の力が必要なのだ。誰が禁じようと忌み嫌おうと、もう一度」

そんな男の、飛王・リードの願いに対し応えるかのように、侑子は悲しげに呟くのだった。

「不可能なのよ、飛王・リード。たとえどんな力を得ようとも、それがあの遺跡の下に眠るものであっても。それはクロウ自身が証明してる。どれ程願おうと進もうと、もう二度と」







「そろそろ小狼くんたちお話終わったかな?」
「多分ねー。オレたち結構長い間街歩いてたしー」
「色々聞けたし名前さんとたくさんお店見て回れたし」
「楽しかったね、またしたい」
「次はもっとゆっくり回れたらいいな」

温かな笑顔を向けるサクラに名前は「そうだね」と笑みを浮かべた。
彼女たちの話に区切りがついたのを見計らったファイが、「ではでは小狼君たちがいるお部屋に突撃と行きますかー」と言ったので二人とモコナは彼の後ろに着いていく。

部屋の前に到着し、扉をノックしてみると中から「はーい」と普段通りの小狼の声が聞こえてきた事にサクラが心底ホッとしている様子。
それもそのはず。街に出かける前の彼はとても落胆していて、サクラはずっと彼のことを気に掛けていたのだった。

「お話終わったー?」
「はい」
「サクラの羽根について情報仕入れてきたんだ」

ファイの肩から小狼が乗っているベッドに飛び乗り、モコナはぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる。
もちろんの事、それを聞いた小狼の表情もとても嬉しそうだった。

「小狼君大丈夫ー?」
「はい」
「元気みたいで安心したよ」
「すみません、心配かけてしまって」

心底申し訳なさそうな顔をして見せる小狼に、「謝らなくていいんだよ」と名前が言おうと口を開く。
が、それはサクラのお腹の音に遮られてしまった。

「ご…ごめんなさい」

とても恥ずかしそうに顔を赤くしながらお腹を抑えるサクラ。
それと同時に、「お腹すいたー」とモコナもお腹辺りをぽんぽん叩く。

「そろそろ空く時間だもん、仕方ないよー」
「すみません。おれが起きなかったから」
「オレもお腹空いたしー。話はさっき見つけてきた所でしよー」
「見つけてきた所?」
「わーい」

わざわざベッドの上から黒鋼の頭上に飛び移り、彼の頭で嬉々として跳ねるモコナ。
明らかにイライラを募らせている黒鋼を見ているのが楽しくて、名前はついプッと吹き出してしまった。

「ほらほら黒様もそんなに怒らないで。お昼ご飯食べに行くって」
「チッ」

以前に比べたら余程忍耐強くなったのか、その後黒鋼はモコナに怒鳴る事もなく大人しく椅子から立ち上がり、皆の後を着いて行くのだった。







「“記憶の本”?」
「って呼ばれてるんだってー。手にした者の記憶を写し取って次に開いた者にそれを見せる本」

ファイの言葉を聞き、小狼は肩を落とし黒鋼の方を一瞥した。
悲しそうにしている彼を見て黒鋼は「なんだ?」と聞くが、きっと勘の鋭い彼の事だ。小狼が想った事など気がついているに違いない。

「…いえ」

笑顔を顔に貼り付けてそうとだけ答える小狼。
二人の様子を見守るように、そして何かを隠しているようにも伺える表情でファイは二人のちょっとしたこの会話を聞いていた。

「なんだよ」
「んーん、なんでもー。でねー、さっき小狼君が持ってた本のマークが」
「モコナ、出して」
「了解ー」

口を大きく開け、奥から一枚の紙を取り出す。
先ほど小狼が手にしていた本と同じ表紙の本だった。

「図書館でコピーしてもらったの」
「これって……」
「サクラの羽根についてるのに似てるよね」

モコナの言う通りである。
確かにこの本の表紙の模様とサクラの記憶の羽根に付いている模様は似ていて、小狼はコクリと首を振った。

「でもモコナは…」
「うん!モコナ“めきょっ!”ってならなかった」
「あの図書館にあったのは複本なんだって」
「なんだそりゃ」
「元になった本を写したものだそうです」
「印刷されたものだね、本屋さんに売ってるみたいな」
「私たちが行ったあの図書館は国内最大の図書館なのに原本が“普通には”置かれてない」
「だからオレたちは原本のコピーだけを貰ってきたよ。これ」

スッとファイがテーブルの中央に差し出すコピー用紙。
その紙にはサクラの羽根が使われた本が印刷されていた。



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