それからというもの、名前はファイが見付け出してくれた二冊の記憶に関する本と自分で見付けた三冊の本をペラペラと捲って読み進めていったのだが結局何も手掛かりは掴めなかった。

元々記憶という難しい事柄についての本自体が少ないようで、仕方ないかと二人は困ったように笑い合う。

「また次の機会に頑張ろうね」
「うん、また頑張るね。わざわざありがとう。こんなに沢山の中から本を探すの手伝ってくれて」
「ううん、全然。なんか足が勝手に動いてたっていうかー」
「なんだか嬉しいな、そう言ってもらえると。私のことなのに足が勝手に動いてただなんて」
「名前ちゃんの喜ぶ顔が見たくてさー」
「ファイ、私と同じこと考えてる。私もファイのよろこ…」

彼女が言い終わるよりも先に、サクラの不安と驚きに満ちた悲鳴に近い声がファイと名前の耳に入って来た。
急いで二人がそちらに向かうとそこには本を開き、涙を流しながら立ち尽くす小狼の姿が。

「どうかしたー?」
「小狼君!!小狼君!!」

サクラが小狼の体を揺さぶるが全く返事が無い。
それどころか彼女が前にいることすら気が付いていないようだ。

「小狼泣いてる!」
「小狼君、大丈夫!?」

名前も声を掛けるが相変わらず彼からは何も応答が無い。

数秒間、一行が小狼の様子を心配そうに見詰めていると、突然彼が手にしている本が光を放った。
咄嗟にファイが小狼の手からその本を離そうと試みるがビクともしない。
サクラやモコナ、名前も試しに離そうとしてみたがやはり微動だにしなかった。
皆は最後の神頼みということで試しに黒鋼が行動に出ることに。

黒鋼が本に手を伸ばしたその瞬間、先程よりもより一層強い光が本から放出され、小狼の手から漸くそれが離れた。

本が離れると、同時に勢いよく小狼は後ろに倒れてしまう。

「小狼君!」
「小狼!」

黒鋼が倒れてしまった彼の手首を掴むと、泣きながら小狼は「……黒鋼さん、ごめんなさい…」とだけ言葉にした。







「小狼、目開けたよー!」

「大丈夫?気分悪い?」

サクラが悲しそうな表情をしながら尋ねると、小狼は静かに首を横に振った。

「ここ図書館の中の医務室だよー。係りのひとに教えてもらって黒様が運んだんだ」
「…………」

小狼は、少し離れた所の壁に寄り掛かる黒鋼を見て顔を歪める。
そしてゆっくりと重い口を開いた。

「黒鋼さん…話が……あるんです」

意を決して紡いだその言葉に黒鋼は真っ直ぐな強い視線だけを彼に向けた。

ファイは名前とサクラとモコナに「オレらちょっと出てよっかー」と言い外に出掛ける提案をして彼女らとその場を後にする。

サクラは小狼の姿が見えなくなる最後まで彼を心配そうに見つめていた。



「小狼君には黒ぴーが付いてるしオレ達は二人がお話ししてる間に色々聞いて回ろうよー」
「サクラの羽根探さないといけないし、名前の人探しもしないといけないし」
「はい」
「サクラ、心配かもしれないけどきっと大丈夫だよ。小狼君だってサクラに心配かけるようなことはしたくないはずだから」
「うん…」

顔は微笑んではいるけど、サクラのその笑みから察するにまだ心配で仕方がないという感じなのだろう。

(サクラどうしたら元気になるかなぁ)

そんなことを考えていると、突然「モコナちょっとここにいる」と言いモコナはぴょんと噴水を取り囲む枠に飛び乗った。

「モコちゃん?」
「モコナ大丈夫なの、一人で?」
「平気!」
「分かったー。じゃ、待っててね。名前ちゃんサクラちゃん行こー」

三人が行ったのをモコナは確認すると、額からパアッと光を放ち水面に侑子を映し出す。
無論この国に来てから侑子と通信するのは初めてなので、久しぶりに顔を見ることが出来てモコナはぴょんぴょん飛び跳ねた。

「侑子ひさしぶりー!」
「また新しい国にいるのかしら」
「うん。今度はね、レコルト国って言うんだって」
「魔法と蔵書で有名な国ね。ちゃんと寝床は確保した?」
「ううん、これから」
「ちゃんと寝ないと駄目よ」
「うん!」

嬉しそうに笑顔を見せるモコナを見て侑子も口元を緩める。
そして突然何かを閃いたかのようにして「そういえば」と言った。

「そっちの五人の寝相はどうなの?」
「うふふふ。サクラはね、結構寝相悪いよ。モコナいつもぎゅーってされながらあっちこっちいっちゃうもん」
「名前はね、寝相はわりと普通だよ。サクラと同じでモコナのことぎゅってしたままよく寝返りはうつけど。あとね、たまに寝言言うんだ。名前ね、夢の中でも黒鋼と戦ってるんだよー。サクラと遊んでる夢とか小狼に色んな国のこと教わってる夢とか。ファイのこともよく寝言言ってるけど、楽しそうだったり悲しそうだったりバラバラ」
「そうなの」
「うん。でね、ファイはよく俯せになってるの。苦しくないのかなぁ。黒鋼はね、意外と動かない。じーっとしてる。一応忍者だからかな。寝相悪い忍者ってなんかヘンだもんね」
「あはは」
「小狼も動かないんだけど…。あれって寝てるっていうより……」
「…………」

侑子は真顔になるモコナがその先を言ってしまう前に話題を反らした。
彼女が何かを感じ取ったようだが、モコナはそれには気付いていない様子。

「今日は誰と寝る予定?」
「今日はね、あんまりお金ないからみんなで一緒に寝ると思うの。そしたらモコナ黒鋼と小狼の真ん中で寝る。なんかね、黒鋼と小狼どっちも同じくらい痛そうなの。だから今日は二人と寝てあげる。二人とも元気になるといいな」
「きっとすぐ元気になるわよ」
「うん!それとね、最後に良いことが一つあるの!名前の願いが叶うかもしれないんだって!探してた人に会えるかもって!」
「そう…」
「あっ、ファイ達が戻ってきた。じゃあね、侑子!」
「ええ。またね、モコナ」

じゃあねと侑子に手を振る。
モコナは通信を切ると、向こうから向かってくる三人の元へと急いだのだった。



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