雪でも降るんじゃないかと思えるくらい寒く、気温は坂を下っていった、そんな放課。日が落ちるのがすっかり早くなった。時計はまだ五時半をまわったばかりなのに真上の空は僅かに漆黒、遠くの空は水色とオレンジ色が混じり合っていた。
ふと、校庭の方面に耳を傾けてみた。陸上部は先程練習が終わったのだが、サッカー部は今やっと練習が終わったらしかった。といっても部員も少ないから本格的な練習は出来ていな後い。部員の一人から頻繁に相談を受けているので、よく知っている。
校庭の方…正確には部室の方を見ていると、今まさに脳内に描いていた奴と目が合ってしまった。
そいつは目を輝かせてぶんぶんと勢いよく手を振った。俺は軽く手を振り返した。すると、そいつは部員2人と女子マネージャーに声を掛けるような動作をし、こっちに向かって走り出した。
俺はマフラーを巻くほど寒いのにも関わらず顔が熱くなり、汗が鼻の上に水溜まりを作った。まだ、心の準備が出来ていないのに。
長い距離を走ってきたのでそいつは俺の前に着くやいなや肩で息をして呼吸を整えた。ふう、と一息ついた後、ニカッと歯を見せて笑った。

「よっ!風丸!練習終わったのか?」
「あ、ああ…円堂もか?」

俺が円堂と呼んだそいつこそが俺の幼なじみで、
俺の好きな奴である。

いつから好きだったかは定かではない。でもはっきりと、恋だと認識したのは小学5年生の頃だった。
もちろんそいつは男だ。そして俺も男。こんな恋、許される訳が無い。だから俺は、今まで告白なんか出来なかった。心を隠し続けてきた。いつかこの気持ちもおさまるだろう、そう信じ続けて。でもおさまることはなかった。それどころか加速し続けた。今じゃ一緒に居るだけで照れてしまう。

「どうしたんだ?風丸」
「え、…いや、何でも…」
「あっ!そうだ!ちょっと待っててくれるか?久しぶりに一緒に帰ろうぜ!」
「お、おう…わかった…」

円堂は「じゃあな!」と言うとまた勢いよく部室へ走って行った。俺は頬の緩みが止まらなくて、マフラーで口元を覆った。

(くっそ…)

意識しているのはやっぱり俺だけなんだと、なんだか再認識させられたように思えた。

(いつまでこんな気持ち抱えなきゃいけないんだろう)

俺は無性に悲しくなった。さっきまで気持ちは躍っていたのに、今じゃすっかり落ちに落ちていた。円堂にここまで左右されるなんて、滑稽だなあ、と思えてきた。

「風丸!」
「うわっ!」

俯いていたから円堂が来ていたことに気づかなかった。俺は思わず声を上げた。

「ごめ、驚かしちゃったか?」
「いや…大丈夫だ」
「そっか!じゃあ帰ろうぜ!」

そして円堂は自然な流れで俺の手を握った。俺はさっきよりも顔が熱くなり、手が汗ばんだ。

「あー良かった!」
「…え、何が?」
「風丸と久しぶりに帰れて!」

円堂は少しだけ頬を赤らめてそう言った。
思わず、「好きだ」と言ってしまいそうになり、俺は強く口を結んだ。


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テーマ「人外ファンタジー」
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