「風丸ー!帰ろうぜ!」
「あ、うん」

制服に着替え終わりカバンを持った時、円堂が駆け寄って来た。OKし、俺らは帰り道を歩き始めた。



「でさー、今日のさー」
「…………………」

手も握ってくれず、楽しそうに話す円堂に苛立った。

二週間前、円堂に告白された。幼い頃からずっと傍に居て、いつの間にか好きになっていた。

告白された時は凄く嬉しかった。始めは戸惑ったけど、俺も好きだ、という事を伝えた。

でも。
あれから二週間も経つのに手も繋がないし、その…キスもしてくれない。自分で手を繋ごうとしたけど「恥ずかしいから」って繋いでくれない。

それから何となくぎこちない。そう感じてるのは俺だけかもしれない。でも拒否されるのが嫌で自分から進んで話したりするのも何となく少なくなった。

…本当に俺の事好きなのかな。


「風丸?どうした?」
「えっあ………ごめん」
「眉と眉の間がきゅーってなってるぜ?」

円堂はそう言って
俺の眉間をさすった。

「………!……………なっ……………」
「何か悩み、あるのか?」

悩みはお前だよ!と叫びたい気持ちを抑え「何でもない」と言い、笑顔を作った。

「……嘘だろ」
「え?」
「お前の嘘なんてお見通しなんだよ」

そう言って円堂は笑った。その笑顔に俺はイラッとした。

「…誰のせいで悩んでると思ってるんだ」
「…………………え?」

俺は俯いたまま、喋り始めた。

駄目だ、こんな事言ってはいけない。俺らしくない。止まれ。そう願っても口は流暢に言葉を発している。

「だって円堂、付き合ってるのに手繋いでくれないし」
「そ、それは………」
「恥ずかしいから?俺もだよ。でもそれよりも円堂と手を繋ぎたい気持ちが勝っている」
「……………………」
「キスもしてくれない。抱きしめてくれない。…これじゃあ只の友達じゃないか」
「……………か、ぜまる…」
「俺は円堂の事が好きだ。…お前は俺の事好きなのか?お前は俺の事只の友達としか見てないのか?!」

激しく燃えた想いを言葉によってぶちまけた。
我に返り、円堂を顔を見上げた。

「……………………!」

今にも泣きそうだった。

「…………………その、ごめん!」

俺は円堂の顔をまともに見れないまま走り去った。

胸が痛い。鋭利なナイフでザクザクと刺されているみたいだ。

何であんな事言ってしまったんだろう。そんな虚しい後悔をしても何も変わらないのに。

その夜は一睡も出来なかった。



「………………はあ」

朝、爽やかな朝なのに俺の周りだけどんより雲らしかった。昨日の円堂の顔が幾度もよぎる。
…何故あんなことを言ってしまったんだろうか。そんな事を考えながら教室へ向かった。

朝練など、する気にもなれなかった。こんなんじゃ駄目だ…と思っていると
廊下で見知った顔とすれ違った。

「…お前、どうしたんだ?」
「え?あ…豪炎寺か」

豪炎寺に会った。一瞬円堂も居るんじゃないか、と不安に駆られたが、居ないらしい。

「お前顔酷いぞ。顔洗ってきた方が良いんじゃないか」
「え、あ、そうか?…うん、そうする。ありがとう」

俺はひらひらと手を振り、顔を洗いに行った。

「ったく、どいつもこいつも…」

後ろで豪炎寺の声が聞こえた気がした。


円堂に会わないようわざわざ遠い外の水道まで来た。ふらふらと歩み寄り、冷たい水で自分の顔を鞭打った。幾分かは楽になった気がした。
豪炎寺に感謝しつつ、教室に戻ろうと振り返ると、

そこには
―円堂が居た。



「な、な、な、なななななんで…」
「え、ご、豪炎寺に顔酷いから洗ってこいって言われて…そ、それで…」

ハ…ハメられた…。………ん?

「で、でも何でわざわざ外の水道に来てるんだよ」
「その…………………………か、風丸に、会わないように…」

考える事が一緒…。ちょっと嬉しいとか思ってしまった。
そこで我に返り「そ、そっか。じゃ、じゃあ…」と言って去ろうとした。

「……っ待てよ!!!」

俺は驚いて前に出した脚をつい止めてしまった。

「ま、また…また逃げるのかよ!」

背中から聞こえる円堂の声は今にも泣きそうなくらい震えていた。

「に、逃げてない…」
「逃げてるじゃないか!昨日も逃げたし!」
「…………………っ」

俺は言葉に詰まった。円堂は静かに話し始めた。

「……言い訳に聞こえるかもしれねーけど本当に、恥ずかしかったんだ。女の子としたこともねーし、ましてや男となんて…恥ずかしかった。」
「………………………」
「そんなの、駄目だよな。だって、俺から告白したのに。風丸から手を繋ぎたいって言われた時嬉しかった。………なのに、俺、拒否して、お前は…頑張ってくれてるのに。」

俺は振り返った。
円堂は俯いていたけど肩は震えていた。
………………俺の、せいだ。

「違う…違うんだ!俺の、せいなんだ……」
「違うよ、俺だよ、俺のせいだよ」
「俺だよ!」
「ちげーよ!俺だよ!」

二人は目を見合わせ、笑った。
言い合いが面白くて、笑った。



「あのな、風丸。俺、ちょっとやきもち妬いてたんだ」
「…………え?」

ぽかん、とした。

「だって風丸、俺と話してもなんかきごちないのに他の奴とは楽しく話すんだ」
「あ………………。そ、それは…また拒否されたりするのが恐くて、進んで話したり出来なくて…」

俺は少し照れくさくて頭をポリポリとかいた。

「何だよ、俺のせいじゃん」
「だから、違うって」
「いや、俺のせいだよ」
「………………ははっ」
「ひひっ」

また、笑い合った。

「とにかく恥ずかしがったら駄目だよな。でも、俺も風丸と手繋ぎたいしその…キスとかもしたいし…抱きしめたりしたい」
「え、円堂…………」

目が合った。
円堂の熱のこもった目で見つめられ少しクラクラしてきた。

「じゃ、じゃあ、今、全部するか…?」
「…………えっあっかっ風丸!?」

俺は火照った体をゆっくりと動かし座っている円堂に近づいた。

「か、風丸…………?」

俺はそっと、手を握った。円堂は目を見開いて凄く驚いた様子だったけれど静かに、円堂は俺の指と自分の指を絡めた。

「えん、どう……………」
「抱きしめて、いいか?」

その問いに、俺はコクリと頷いた。

その瞬間。ぐいっと引き寄せられいつの間にか円堂の身体にすっぽりと埋まっていた。円堂の身体は暖かくて大きかった。
こんなに、円堂って大きかったっけ…。だがそんな疑問も上昇した体温でかき消された。

「…ははっ風丸あったけーな」
「…円堂も、な」

それからしばらくそのままでいると円堂が俺の肩を掴んで少し離し、見つめ合うような形になった。

「風丸…その、……………いいか?」

何となく意味は分かった。だから、俺は
頷いた。
じっと見つめていると「目、閉じてくれるか?」と少し笑いながら言われた。
すっかり忘れてた…と心の中で呟いた。
静かに目を閉じた。



そして、唇に感触を感じた。
キスを、した。



「風丸ー!帰ろーぜ!」
「うん」

いつもの放課後、でもちょっと違う。



「風丸ー、手、繋ごーぜ!」
「うん」

あの日から毎日、手を繋いでいる。あの日の放課後にはまだ恥ずかしかったけど、一週間経った今は何てことはない。

「なあ、円堂」
「ん?」
「次の日曜、どこかでかけようか」
「……………!おう!」

パアッと顔を輝かせ元気良く頷いた。



手を繋ぎたい。
抱きしめてほしい。抱きしめたい。キスしてほしい。キスしたい。
でも、それらは全部円堂にしかしてほしくないんだ。



なんて、本人には
恥ずかしくて言えないけど。


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