窓の外から聞こえる雨音はより激しさを増している。正午辺りから降り続けている雨はまだまだ止みそうにない。

「ひまひまー!サッカーやろうぜ!」
「風邪ひいてもいいならやってこいよ」

円堂先輩と風丸先輩の会話が聞こえてくる。思わずふふっと笑ってしまった。サッカーしている皆さんは中学生とは思えないくらい真剣だけど、サッカーしていない時の普段の皆さんは中学生らしさがある。その様子を見るのが私は好きだ。
ふと、視界の端に豪炎寺先輩が見えた。姿を追うと、一人で食堂を出て行ってしまった。私はどうしても気になって席を立ち、豪炎寺先輩を追いかけた。



もしかしたらトイレかな、と部屋を出てから思って引き返そうかと思ったけど、豪炎寺先輩はトイレを通り過ぎて玄関に向かっていった。私は勇気を出して声をかけた。

「ご、豪炎寺先輩!!」
「…音無、どうした?」
「こっちのセリフです。外へ何しに行くんですか?」
「タオルを忘れたから取りに行く」

ああなるほど…と思ったけど手に傘らしきものは握られていない。ていうか別にタオルぐらい雨が止んだら取りに行けばいいんじゃないですか?私はそのことを豪炎寺先輩に言うと、

「夕香からもらった物なんだ」
「…相変わらず妹さん好きですね」
「音無に言われたくない」
「なっ…!…ごほん、とにかく豪炎寺先輩、傘もささずに行くつもりですか?」
「すぐ取りに行ってくるから大丈夫じゃないか?」
「だめですよ!風邪でもひかれたら困りますから!傘、持ってきます!」

私はそう言って急いで自分の部屋に急いだ。おせっかいかもしれない。でもこうせざるを得ない。好きな人だったら、当たり前じゃない!



「豪炎寺先輩、待たせてすみません!」
「いや、大丈夫だ。ありがとな」

私は豪炎寺先輩に傘を手渡した。豪炎寺先輩は優しい笑顔で受け取ってくれた。

「あ、ちゃんと置いてった場所わかるんですか?」
「いや、わからない」

豪炎寺先輩はさらりとそう言った。「え」と思わず声をもらした。

「どっかで落したんだ。だからどこにあるかはわからない」
「探すの大変じゃないですかそれ…」
「多分大丈夫だ」

そう言うと豪炎寺先輩は外への扉を開けた。すでに豪雨が押し寄せている。正直放っておけない。迷惑じゃないかな。私は手を握り締めた。

「わ、私も行きます!」
「…え?」

豪炎寺先輩は振り向いて目を見開いた。手に汗がにじむ。こんな大胆なことを言えるなんて、今の私はすごい。

「でも傘、一本しかないぞ」
「べ、別に構わないです!それより一人で行かせる方が心配です!」

あっけにとられた表情で豪炎寺先輩は私を見る。顔が熱いけど、私は目線を逸らさない。しばらくすると、豪炎寺先輩は小さな溜め息をついた後、手招きをした。

「え、いいんですか?」
「ああ。その代わり風邪ひくなよ」
「…はいっ!」

私は豪炎寺先輩の隣に立って一緒に外へ出た。豪炎寺先輩は傘を開いた後、私の方にちょっとだけ傾けた。

「ふふ」
「…なんだ?」
「優しいですね」

そう言うと豪炎寺先輩は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。でもそんなところも可愛くて、胸がきゅんと鳴るのがわかった。
ちょっとでかめの傘だけど、やっと私と豪炎寺先輩が入るくらいの大きさで、肩が触れ合ってしまう。その触れ合っている部分がやけに熱くて、どきどきが止まらない。

(このまま時間が止まってしまえばいいのに)

好きです、なんて言ったら聞こえちゃうかな。手を伸ばしたら手だって握れちゃう距離。でもまだ言えない。

(だってまだアプローチの途中だもん!)

「豪炎寺先輩!覚悟しててくださいね!」
「…え、何をだ?」


ちなみにその夜、二人仲良く風邪をひいたとか。


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