最近鬼道くんの様子がおかしい。やたらと俺を見て来るし、何時の間にか近くに居ることが多い。そのせいで度々目線が合って正直気恥ずかしい。まさか俺に気があるんじゃないかと思ったこともあったが。
(あいつが好きなのはどうせ円堂なんだろうな…)
胸の傷みに気付かないフリをしながら、俺はぬるいお茶を喉に流し込んだ。
「鬼道、遅いな」
「大便なんじゃねえの」
そう言うと佐久間は鋭く睨んできたが、同時に俺は顔を背けた。
なんとなく机の上に置かれた弁当を見る。そういえばいつから2人と昼食を共にするようになったんだっけな。そういや最初に誘ってきたのも鬼道だった。最初は逃げていたが、あいつはしつこく追いかけてきた。先に折れたのは俺だった。少し、懐かしい気持ちになる。
「おーい佐久間ー、先生が職員室来いってさー」
「わかったー。じゃあ不動、行ってくる」
佐久間はそう言いながら立ち上がり、教室から出て行った。するとポケットに入っていた携帯電話が震え出した。俺はポケットから取りだし、メールが来たことを確認した。差出人の欄を見ると、鬼道だった。
あんなにタイミングがいいっつーことはあいつがやったんかな、と思いながら黙って階段を登る。屋上まではさほど時間はかからなかった。
鍵が壊れている扉を思いきり蹴飛ばした。屋上は普段は立入禁止で、こうしないと入れないのだ。扉が開くと心地よい風が流れ込み、スカイブルーの色が飛び込んできた。その中に、鬼道がいた。
「で、なんだよ、話って」
「突然すまん。だが、そろそろ伝えようと思ってな」
鬼道はいつも通りの余裕しゃくしゃくな笑みを浮かべている。…わけではなく、むしろ逆だった。
鬼道は早足で俺に歩み寄り、目の前というような距離で止まった。
「お、おれ。お前に言いたいことがあるんだ」
「…なんだよ」
鬼道は勢いよく息を吸い込んだ。
「おれ!お前のことずっとすきだったんだ!」
鬼道の声は小さな屋上に響いた。俺はしばらく佇んだまま、何もできなかった。ようやく口にできた言葉は、
「…はあああああああ!?」
叫びだった。