今でも
街のどこかに居るんじゃないかと
そう思い込みながら、
今を過ごしている。





『別れよう』

そう風丸から言い渡されたのは中学校の卒業式の日だった。

『………え?』
『ごめん、急に。でも、別れようと決めていたのはずっと前からなんだ。…だから県外の高校に行くことを決めたんだ』

風丸の目は揺らぎ無くて、決意で固められていた。

『…なんで?』

一生懸命絞り出して、三文字しか出なかった。俺の声は驚くほど枯れていて、か弱かった。

『…愛しすぎたんだ。後戻りできないくらいに』

そう言って風丸は笑っていたけど、痛々しくて、見ることが出来なかった。





あの日から風丸と会ったり連絡を取ったりはしていない。家までは徒歩で行けるほど近いのに。アドレスも知っているのに。

(相当な臆病者だな)

風丸と会いたい気持ちと風丸に会うことがこわい気持ちが寄り添っている。朝も、昼も、夜も、いつも心の片隅に風丸がいる。
風丸と離れて、ふと、何気ないところで風丸の影を見つける。朝、風丸が起こさないと中々起きれない。昼、いつも嫌いなものを風丸に食べてもらっていた。夜、寝る前に風丸と電話することが習慣づけられていた。
高校生になった今も、今でも、風丸のことを考えると、胸が張り裂けそうだった。
…そんな回想をしてしまうのも、電車の中ならではだ。ガタンゴトンと規則的に揺られ、目的地まで目指す。

「次はー…●●駅ー…」

俺は重い腰を持ち上げて自動ドアに向かう。ドアが開けば人、人、人。人ごみをかき分けてエスカレーターに飛び乗る。ふと、最近人気の映画の看板が目に入った。淡いピンク色で「運命を信じますか」というキャッチコピーが記されている。
ぼんやりと眺めているとエスカレーターの終わりはそこまできていた。するりと降りてしばらく進むと改札。ピッと音を鳴らして改札を快適に通る。

(あっ、弁当買っていかなきゃ)

昨日から母が同窓会だとかで不在で、父は仕事で忙しいため、今日はコンビニ弁当だ。駅に隣接しているコンビニに適当に入り、弁当コーナーに直行した。
さすがに日曜日といえど、人は多い。お目当ての弁当をさっと取ると、今日は部活のみといえど喉が乾くだろうからスポーツドリンクの入ったペットボトルも手に取る。

なぜか、手が滑った。


ぼとり、とペットボトルが床に打ちつけられる。

「あちゃー…」

顔を歪ませた後、腰を曲げてペットボトルを手に取る。すると奥の方からも細い手が出てきて、ペットボトルを俺と同時のタイミングで手にした。

「あ、ごめんなさい」

頭上から低い、でも透き通ったような、…どこかで聞いたことあるような声だった。

「いえ、こちらこ…そ…」


時間が、止まったように感じた。

まるで、目の前で目を見開いている彼と俺だけ、世界から切り取られたような錯覚に陥った。

ふと、さっき見た映画の看板のキャッチコピーを思い出す。

『運命を信じますか?』

今なら信じることができる。

目の前の彼の水色の、見慣れた色がさらりと揺れた。


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