これ、知ってる?
円堂は無垢だ。純粋だ。中学二年生の男子なんかは特に思春期の真っ最中だからあっち方面に興味があるんだろう。しかし、円堂は例外だ。今までずっと一緒に過ごしてきたけど俺がブラジャー付け始めた時も何も言わないどころかむしろ気付かない。それはさすがに傷ついたが…しかし逆にブラジャーをつけたことに気付いて興奮とかしている姿を思い浮かべることができない。これっぽっちもできない。この認識は部員どころか学年中に広がっている。
だからそんな円堂に猥談を持ちかけることはタブーだ。ましてやあれを見せるなんてそんな危険なことはしてはいけないのだ。
そう、コンドーム。
マックスが「これ、知ってる?」と言いながら見せたものはコンドームだった。透けて見えるところが妙にいやらしい。
「なんだ、これ?お菓子か?」
しまった、円堂が反応してしまった。俺は素早くマックスの手からコンドームを取り上げ、声を張り上げた。
「え、円堂にこんな物見せんな!」
「男はみんないつかこれを手にするんだよ?」
マックスはけろりとそう言った。俺はうっと呻いた。確かにそうかもしれない。円堂はモテる。円堂を好いてる奴は少なくはない。そして、俺もその一人だった。まあそんなことはどうでもいい。
「まだ中二だぞ?早すぎるだろ」
「いやーでも円堂は無垢過ぎるからさあ」
「なあなあ、風丸。それ、なんだ?」
円堂は俺の手に握られているコンドームを指差しながら言った。俺は言葉につまり、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。
「風丸?」
「え…あ…う…」
「教えてやんなよー」
つんつん、と肘でつついてくるマックスを睨むと「おーこわいこわい」と悪びれた様子も無く一歩距離を取った。
「ねえ、半田?教えてあげた方がいいよね?」
「え?あーまあ…」
半田は困ったような笑顔を見せ、中途半端で曖昧な答えを返した。だから中途半田って言われるんだ。
他の部員も苦笑いを見せていた。一年生は顔を赤らめているが。
「…ここでは言いにくいことか?」
「えっあっちが」
「あ、わかった!」
円堂は晴れやかな笑顔を見せた。まさか本当にわかったんじゃないかと冷や汗が出る。確か保健体育でそれらしきことを学んでいたはずだ。まあ円堂は理解出来なかったらしいが。
「それ、お菓子だろ!」
「…は?」「だから言いにくかったんだな!なるほどー」
一瞬の沈黙。その後どっと笑い声が上がった。俺ははあーっと安堵の声をもらした。円堂は訳のわからない顔をし、頭に?マークを浮かべていた。
「んー、よくわからないけど食べないのか?」
「た、食べねーよ!」
「じゃあ俺が食べる!」
「あっ、だ、だめだ!」
俺はとっさにコンドームを背中の後ろに隠した。
その時、バンッ!と大きな音と共に女子マネージャーの一人である木野秋が眉を吊り上げた状態で登場した。
「みんな!もう下校時間よ!さっさと着替えて帰りなさーいっ!」
小さな部室に木野の声が響いた。
以後、コンドームが円堂の前に晒されることは無かった。