「あ〜いててて…」
天馬はお腹をさすりながら、保健室のドアを開けた。先生を探そうと見回すが、誰もいない。仕方ないので、ベッドに横になろうとベッドの周りにあるカーテンを開けた。
「うわっ…!」
「えっ?」
カーテンを開いた瞬間、天馬にとって聞き慣れた声が聞こえた。ベッドを見ると、片手に携帯を持って横たわる剣城が居た。
「…なにしてるの?」
「…お前こそ」
「ああ〜つまりサボりか!」
天馬は納得してもう一つのベッドに座った。剣城は舌打ちして「お前は何しに来たんだよ」と天馬に聞き返した。
「ちょっと腹が痛くて…」
「はあ?元気そうじゃねえかよ」
「え?…あ、剣城と話してたら治ったみたい」
天馬はそう言って顔を綻ばせる。剣城は「変なやつ」と言うとそっぽを向いてしまった。天馬は剣城をじっと見つめたのちに、立ち上がった。そして、剣城が横たわるベッドにぼすんと音を立てて座った。もちろん剣城は驚いて天馬の方に向き直った。
「お、おい!何してんだよ!」
天馬は笑いながら「剣城と寝ようと思って」と答えた。剣城は天馬を押し返す。
「オレはお前と寝たくねえ!」
「え〜オレはもっと剣城と仲良くなりたいんだけど…だめかな?」
その言葉に剣城は火が出そうなほど赤くなった。思わず固まってしまう。しめた!という表情をして天馬はベッドにダイブした。「うげっ」と剣城のうめき声がベッドの軋む音と共に聞こえた。
「お、重いんだよ!どけ!」
「やだ」
「おいこら!」
「うるさい」と天馬は剣城の首に手を回し、ぎゅっと力を入れた。じたばたと動き回ってた剣城が、電池が無くなった人形のようにぴたりと動きを止めた。
「剣城って、意外と細いね。肌も真っ白だし、女の子みたい」
「ふ…ふざけんじゃねえぞ…」
剣城は天馬の見た目よりもがっしりとした身体つきと爽やかで風のような匂い、そして暖かい体温にくらくらしていた。なぜ、こんなにも心臓が脈打っているのか、わからない答えで頭がいっぱいだ。
「剣城」
「なっなんだよ!」
「ううん。なんでもないよ」
「ったく…なんなんだよ…」
とくんとくん、二人の速まった鼓動が伝わり、重なり合う。
「…ねえ、剣城」
「こ、今度は何だよ?」
「…なんでもない」
まだ、言わないでおこう。天馬はそう心の中で呟いた。
この気持ちを言うのは、まだまだ先になりそうだ。
「…つーかいつまでこうしてるんだよ」
「…………」
「おい、松風天馬」
「むにゃむにゃ…」
「寝てるしっっ!!!」
title : 彼女の為に泣いた