円堂は風丸のお墓参りを終え、大学へ電車で向かう。しばらく電車で揺られていると最寄り駅に到着した。鞄を持って立ち上がり、電車を降りる。その瞬間、9月だと言うのに未だに蒸している熱気が身を包んだ。今年は厳しい残暑が続くらしい。煩わしくも夏らしさを感じさせる蝉の声に耳をすませながら、駅をあとにする。



「おー不動!」

不動と呼ばれる男性は、円堂を一瞥したあと「…よお」と返事して机の上に置かれたノートに目線を戻した。円堂は鞄を置いて不動の隣の席に腰掛けた。
彼は円堂が加入しているサッカーのサークルのメンバーの1人だ。ぶっきらぼうな性格で一人狼のような彼だが、円堂いわく「サッカー好きな奴はみんな友達だ!」とか何とかで仲良くしている。学部が同じということもあり、こうして同じ授業を受けることが多く、最近は行動を共にすることが多々ある。

「お前…お香臭いけど墓参りでも行ったのか?」
「え!?」

円堂は急いで着ているTシャツの匂いをかいだ。確かに臭い。微かな汗の匂いと混ざっていて更に臭くなっている気がする。でもあまり気にしないのが円堂だ。

「へへ、不動は鼻がいいな。うん、午前中墓参り行ったんだ」

そう話すと不動は「そうか」とぶっきらぼうに返す。でも詳しく聞いてこないあたりが、不動の優しさを感じ取ることができる。「不動は優しいな」と言うと顔を赤くして慌てふためいた。「はっはあ!?何言ってんだよテメェ!!」と言ってそっぽを向いても赤くなった耳は長い黒髪から覗いていた。と、そこで授業が始まりを告げる。

風丸は、恋人というわけではなかった。というか男でしかも幽霊である彼を恋人と呼べるのか謎だけど。
円堂は、今日みた夢を思い出す。何とも不思議な夢だった。円堂と風丸は同い年で同じ制服を着ていた。肩を叩き合ったり小突きあったり、まるで…いや、親友そのものだった。そして放課後になると同じサッカーのユニフォームを着て、同じボールを追いかけていた。その2人の顔はとても幸せそうで。眩しかった。でも風丸は相変わらず綺麗で、眩しくて、何も変わらない彼の姿があった。ああ、きっと円堂たちが知らない世界でその2人は楽しくやっているのだろう。そう、思った。



「円堂くん!」

授業が終わってサークルに行こうとしているとき。後ろから女の子の可愛らしい声が聞こえた。振り返ると、声と同様可愛らしい女の子が立っていた。「ちょっと…いいですか?」震える声が、真剣さを物語っていた。



しばらく歩いてると、肩に何かが触れた。振り返ると、赤い髪を揺らしている美少年が居た。といっても、彼のことは知ってる。同じサッカーのサークルのメンバー、ヒロトだ。「さっき女の子と話してたけど、告白?」彼はとても鋭い。円堂は思わず言葉を失った。ヒロトは大人びた笑みを見せる。

「…まあ、そうかな」
「で?断ったの?」

円堂は小さく頷いた。どうも恋情についての質問には疎い。ヒロトは残念そうな顔を浮かべながら「また断ったの?」と円堂に質問する。また円堂は小さく頷く。そしてヒロトはわかりやすい溜息をついた。

「いつも断ってるよね。何か理由があるの?」
「…んー、昔好きだった人が忘れられなくて」
「えっ?いたの?」

「まさか恋愛に疎いサッカーバカの円堂くんに好きな人がいたなんて」という顔でそう切り替えした。思わず円堂も眉間に皺を寄せた。失礼な男だ、と心中で呟く。だが誰もが彼のような意見を持つだろう。

「居たんだよ、俺にも」
「へえ…どんな人?」

どんな人…。まず特徴にあげられるのは空色のような髪。その髪はポニーテールに結い上げられていて、いつもさらさらと揺れている。そして長い睫毛と大きな目。そう、まるで今横切った人のような…。

「えっ!?」

円堂は思わず声を大にして叫びながら後ろを振り返った。いない。まあ当たり前だろう。見間違いだろう。でも、

「風丸…?」

思わず名前を呼んだ。そこに居たような気がしてならない。ヒロトが不思議そうに首を傾げ「どうしたんだい?」と問いかける。円堂はヒロトの方に向いて「何でもない」と言いながら首を振った。
そして円堂は真っ直ぐ前を向いた。目の前には大学生たちと果てしない空が存在している。思わず小さな笑みを浮かべた。まるで彼が笑いかけているようで。その笑みに返事をするように心中で呟く。

「また、会える日を願って」


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