あれから、数日が経った。
連絡はもちろんのこと、会ってもいない。今、どこで何してるのかもわからない。でも多分また雷門中のコーチに励んでいるのだろう。あいつは、そういう奴だ。

ふと、外を見るとさっきまでぽつぽつと小降りだった雨がどしゃ降りになっていた。もうすぐ本格的にどしゃ降りとなりそうだ、と何気なくつけていたテレビのニュースでも、これから激しい雨が降るという頼りない予報を告げていた気がする。ぼーっとテレビの画面を見つめていると、机の上に置いてあった携帯が鳴り出す。憂鬱な気分で携帯に手を延ばし、電話に出た。

「もしもし」
『あっもしもし風丸?緑川だけど』

耳に届いた声は意外なものだった。それでも「なんの用だ?」と手短に済ませようとする。

『あっ実は風丸ん家に忘れ物したみたいでさ〜取りに行こうと思ったら急にすっごい雨降っちゃったから後で取りにいくよ』
「ハンカチのことか?わかった」

「じゃあな」と電話を切ろうとすると『あ、そうそう』と後付けの言葉が聞こえた。

『なんかキャプテンが居た気がするんだけどそういえば結婚式以来だよね〜』
「…え」
『そういえば風丸の家方向に向かってたけど何か約束してたの?傘もささずに走って行ったけど』
「ありがとう、緑川!」

風丸は緑川の次の言葉を待たずに電話を切って立ち上がった。携帯電話を無理矢理ズボンのポケットにしまい込んで走り出した。

「…っと、傘忘れてた」

玄関に着くと周りがどしゃ降りだったことを思い出した。しかし、傘を探すも中々見つからない。
そこで前に壊れたことを思い出した。風丸は小さく舌打ちをして部屋を飛び出した。

マンションの外に出ると思っていた以上のどしゃ降りにびっくりしたが、なりふり構ってられない。迷わず駆け出した。



探し始めて数分、案外早く見つかった。駅からマンションまでの道のりの途中に円堂は居た。

「円堂!」
「…風丸!?」

雨でよく見えないけど全身びしょ濡れだ。なんで傘を差してないのかも、ここに居るのかもわからない。

「風丸、伝えなきゃならないことがあるんだ!」

突如そんなことを言い出した。あのときと同じ表情で、思わずどきりとする。赤くなった頬を誤魔化すように「なんだ?」と冷静に言う。

「俺、風丸が好きだ!」

何を言うかと思えば数日前に言った言葉と同じ。だがまだ続きがありそうなので風丸は黙って聞く。雨の音がうるさい。

「でも俺たち、男同士だから…一生居ることは叶わないかもしれない。でも、風丸のことはずっとずっと大好きだ!これからも!何があっても!」
「…えんど、」

視界が滲んでよく見えなくなる。雨のせいなのだろうか。それとも、

「…俺も、ずっと好きだよ。何があっても、好きだ」
「風丸…」

風丸は久しぶりに、心から笑った。その笑顔を見て、円堂も自然と笑顔になった。周りは雨なのに、笑顔はとても晴れやかだ。風丸は頭を円堂の肩に預けた。

またきっと、お互い恋をしていくのだろう。でもこんなに恋い焦がれる思いをするのは最後かもしれない。
でも、この事実だけは変わらない。

「これからもずっと、お前は大切な人だよ」
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