夢でも見ているんじゃないか。風丸はそのように思えるほど、幸せという気持ちでいっぱいだった。
唇から伝わる熱は確かに円堂のもので、右手で掴んでいる服も円堂のもので。
しばらく啄むようなキスをしばらくしていると、風丸の口内に円堂の赤い舌が割って入る。風丸は少しだけ驚いて身体を強張らせたけど、抵抗もせず、ただただ応える。
小さな部屋は、卑猥な唾液の音と2人分の吐息以外は静寂だ。どのくらい唇を合わせていたかわからないほど長くして、ようやく唇を離した。

「…風丸、いいか?」

円堂はそう言いながら風丸を優しくその場に押し倒した。風丸はさすがに今まで以上の驚きを見せた。そして思考がめぐる。
いい、のか?もちろんこれから円堂が何しようとしてるかぐらいわかってる。
だからこそ、だからこそ。ずっと望んできたことだけど、だけど。
風丸は、優しく、だけど強く円堂の肩を手のひらで押し返した。

「風丸…なんで?」
「…だめだ、こんなことしちゃ、だめだ。お互い幸せになれない」
「で、でも」
「このままだと、戻れなくなる」

泣きそうな顔で、円堂は風丸の顔を見つめている。口はだらしなく開いたままだ。
風丸は円堂を押しやって立ち上がった。円堂は未だに床に座り込んでいる。「…帰ってくれ」冷たい声で言う。円堂はハッとして風丸の顔を見上げるが、目を合わせようとしない。見上げた顔を俯かせて、ゆっくり立ち上がる。そしてずるずると玄関へ向かった。靴を履く姿を風丸は呆然と見る。本当に、行かせてもいいのだろうか。

「なあ、風丸…」
「…いいから、行ってくれ」

いいに決まってる。風丸は無理矢理ドアを開けさせて部屋の外へと追い出した。円堂は驚きと悲しみと悔しさが入り混じった表情を浮かべる。「さよなら」冷たく言い放って風丸は思いきりドアを閉めた。しばらく、円堂はその場から動くことができなかった。

「はあっ…はあっ…」

円堂を外に追い出すと、荒れた息を整えるように肩で息をしながらドアにもたれかかる。焦点の合わない目で足元を見る。だんだん視界全体がぼやけてきて、溢れた液体が頬を伝った。しばらくして、ぽろぽろと涙を流して泣いていることがわかった。

「うう…えんどぉ…」

嗚咽と共に愛しい彼の名前が口をついて出た。力が入らなくなってずるずると背もたれながらその場に座り込んだ。ぽろぽろ。ぽろぽろ。止まらない。

「大好きだよ…円堂…」

決して伝わらない告白を、小さな声で呟いた。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -