逸らしたいけど、逸らせない視線。円堂は目を見開いて、ただただ驚いている。二人は見つめあったまま、一言も口にしない。はじめにこの沈黙を破ったのは、

「…風丸、それほんとか?」

円堂だった。
風丸はようやく目線を逸らしてこくりと首を前に倒した。額辺りに感じるちくちくとした目線が痛い。風丸は頭を上げるに上げれなかった。
きっと、「気持ち悪い」とか「ありえない」とか言うのだろう。もしかしたら…いや、確実に友達には戻れない。
しかし、その覚悟の上だ。風丸は俯きながら次の言葉を待った。

「…俺も、好きだ」

その言葉を聞いた瞬間、風丸の脳内は疑問でいっぱいになる。それは、結婚式を数週間前に終えた男が言う台詞じゃない。思わず顔を上げた。円堂の顔は、いつにもまして真剣な面持ちだ。それに円堂は、冗談でこのようなことを言う輩ではない。

「…雷門は」
「雷門のことも好きだ」
「…は?」
「でも俺は、中学生のときから風丸が好きだった」

あのときから?そんな素振りは過去を思い出してもどこにも見つからない。何かの間違いなのではないか…その考えは円堂の真剣そのものの表情によって打破される。

「でも男同士なんて変だから、
言えなかった。ごめん」
「…いや、俺こそ」

言えなかった。そりゃそうだ。外国では同性同士の結婚は可能だとか、同性愛は変なことではないとか、報道されているけど日本ではそんなことはない。偏見とかそういうことの前にまず変だと思う。

「円堂は、それを言いにきたのか?」
「…いや、俺は風丸のこと本当に好きだから幸せになってほしいと思って、だから好きな人がいるなら素直に応援しようと思ってさ…」

円堂は今にも泣きそうな笑顔を浮かべてそう言った。そんな風に言うなんて、卑怯なんじゃないか。

「まさか告白されるなんて思わなかったから焦って本当のこと言っちゃったけど…言うつもりなんてなかった…」

眉尻を下げて円堂は言う。もし円堂と風丸が今、中学生ならば喜び合っただろう。でも今、2人の表情はどうみても悲しそうで辛かった。大人になるってこういうことなのかと、風丸は心中で思った。

「なあ風丸、キスしてもいいか?」
「…はあ!?おまえ、雷門は…」
「嫌なら突き飛ばしていいから」

円堂はテーブルに手をついて、身を乗り出した。ほんのり赤く染まっている顔が風丸に刻々と近づく。風丸は目線を右往左往させた。2人の距離があと何センチになる。

「卑怯だ、そんなの…」

風丸は黙って円堂の着ているジャージの袖を弱々しく握った。
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