小さな部屋に笑い声が響く。こんな風に明るい部屋に見えるのは久しぶりだ。この前緑川が遊びに来て以来なのではないだろうか。そういえば遊びに来たときハンカチを忘れていったけどいつ取りに来るんだろう。
と、どうでもよいことを考えながら風丸は小さな笑みを浮かべ円堂の話に耳を傾けた。ご飯を食べてるときからずっと話続けているが、やっぱりサッカーの話題がほとんどなところは変わってない。
ご飯を食べたあとは皿洗いをして、今に至る。円堂が「ご飯ご馳走してもらったから皿洗いくらいはやるよ」とガラにも無いことを言った。お言葉に甘えて皿洗いしてもらったけど、妙に手馴れていた。やはり奥さんと、こういう風な会話をしてるのだろうか…。そう思うと途端に悲しくなって、気を紛らわすために結局は皿洗いを手伝った。
「でさー、そんとき1年のDFがさ…」
円堂はどうやら、雷門中の監督をしているらしく、度々教え子の話が出てくる。話してるときの笑顔は24歳ではなく、あのとき…14歳のままのように見えた。なんだかんだ言ってこいつも、全然変わってない。
「あ、…そういえばさ」
突如話を変えたと思えば言葉を濁らせた。そしてその先を言おうとはしなく、部屋に静寂がおとずれた。「どうした?」と風丸は不思議そうに聞いた。
「風丸は…さ、好きな人いんの?」
あまりに驚いて、言葉すら出てこなかった。なんで円堂は、このとき、この瞬間にそんなことを聞くのか。理由が全くわからない。後付けするように焦った様子で「いや!き、気になっただけだから!気にしないでくれ!」と言った。好きな人、いるにはいる。いるけど、
「…言えねー」
「ってことはいるのか?」
「秘密」
自嘲気味に微笑み、手元に置いてあるコップを手にしてコーヒーを流し込んだ。全く甘くないどころか殺人的な苦さだと感じていたブラックコーヒーが美味しく感じるようになったのは最近だった。
ふと、悪魔の声がよぎった。ここで「実は円堂のこと好きだったんだよな」とか告白してしまえば良いじゃないか、と。
…なんて、そんなことするわけない。今まで必死に隠し通して来て、一生胸に秘めようって決めたのに、今更そんなことするわけがない。
「でも風丸ならかっこいいから自然と女が集まるんじゃねえか?」
「え?」
「ほら、優しいしさ、すぐ結婚なり出来るって!」
ありがとうって言おうとした、でも、
「…できたら、いいよな」
「え?」
さっきまでそんなことするわけないっつってたのに馬鹿だな。風丸は真っ直ぐ円堂の目を射抜いた。円堂はたじろぎながらも目を逸らさずにいた。
「俺、円堂のことが好きだ」
そして、告白してしまった。