「…ったく、来るなら言えばいいのに」
「ごめんごめん!驚かせたくて」

へらっと笑いながら円堂は手のひらと手のひらを合わせた。まるで反省の無い顔には見えるが、風丸はそれだけで許してしまう。「…まあいいけど」と言って円堂を小さなテーブルのそばに座らせた。

「お昼、どうせまだ食べてないんだろ?」
「あはは…まあ…」

風丸はひとつ溜め息をついて、台所に向かう。円堂は風丸の背中に「ありがとな」とお礼を言った。風丸は円堂に背を向けたまま微笑んで、何も帰さなかった。
冷蔵庫の扉を開けて中身を覗く。風丸はメニューを考えるのと同時に、つい数分前のことを思い出していた。



『円堂…?』
『久しぶりだな、風丸。元気だったか?』

風丸はその問いに答えられず、ただ目を大きく見開いて棒立ちしていることしかできなかった。円堂は不思議そうに首を傾げた。

『風丸?』
『え…あ、ああ、すまない。驚いて…』

そう言うと円堂はしてやったりという笑顔を浮かべた。こんな笑顔を見るのは何ヶ月ぶりだろうか。案外一ヶ月も経っていないかもしれない。しかし、風丸にとってはやけに久しぶりのように思えた。
それは円堂のいない日々が、長く感じるということを示していることに、風丸は気がついた。

『久しぶり…か?結婚式ぶりだもんな』

結婚式。その言葉に反応せざるを得ない。風丸の身体はとたんに硬直し、脂汗まで浮かび上がってきた。
結婚式というのは友達のとかではなく、円堂自身の。そして相手は、

『…雷門は元気か?ってもう雷門じゃないよな』
『いいって別に!ああ、元気だよ』
『そっか…まあ、上がれよ』

風丸はずっと玄関で喋っていたことに気がつき、円堂を家の中に招き入れた。円堂は『お邪魔しまーす』と言いながら靴を脱いで足を踏み入れた。



「風丸?」
「のわっ!」
「あっごめん!別に驚かすつもりは無かったんだけど、ボーッとしてたから」

回想をしていたため目の前まで円堂の顔が迫っていたことに気がつかなかった。思わず声を出して仰け反ってしまった。その声で円堂も驚いて仰け反る。

「いや、何でもない。まあ何も無いけど、座ってろよ」
「そうか?ごめんな」

手伝おうとしていたのだろうけど、風丸はやんわりと断った。客にそんなことをさせるわけにはいかない。



「ほら」
「さんきゅー!」

円堂の前に出来上がった昼食を置く。遅れて自分のところにも置いて、円堂の向かいに座った。
「いただきます!」円堂は出来上がった昼食を頬張り始めた。風丸も「いただきます」と言う。
そういえば円堂は何をしに来たのだろう。まさか昼食をたかりに来たのではないのだろうか、と思うほど本題が出ることは無かった。
昔の円堂と風丸なら、別に理由が無くともお互いの家を行き来していたのに。いつからこうなってしまったのだろうか。
風丸はそう思考を巡らせながら自分も飯にやっと手をつけた。
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