円堂は周りを見回した。人ごみの中でも目立つ、綺麗な空色を探すものの、見つからない。やはり来てないのだろうか。円堂はうなだれた。そこへ心配そうな顔で豪炎寺が歩み寄る。「うかない顔だな。どうした」豪炎寺は心配症だな、と円堂はひそかに思った。円堂は笑って何でもないと言った。



一方、風丸は浴衣姿の塔内と祭りをまわっていた。今は店の駐車場でお互い座って休憩している。気分が高揚しているため会話は絶えない。しかし、塔内の表情はどこか沈んでいる。会話がひと段落すると、おそるおそる理由を聞いてみる。

「何かあったか?」
「え?」
「いや、ちょっと元気ないなって」
「…あのね、…聞いてほしいことがあるの」

塔内は緊張した面持ちで風丸と向き合う。



円堂のズボンのポケットに入っていた携帯電話が震える。手をつっこんで携帯電話を取り出し、ディスプレイを確認した。知らない電話番号、円堂は少し悩んだのちに電話に出た。

「…もしもし」
「えっと、誰ですか?」
「塔内です」
「えっ!?」

予想だにしなかった人物で、円堂は頬張っていたりんご飴をつまらせ、せき込んだ。「大丈夫?」と心配そうな声が耳に届く。落ちついて俺は「大丈夫」と返事をし、要件を聞きだす。

「…実はね、風丸くんとはぐれちゃって。見つけてほしくて…」
「えっそうなのか?わかった。知らせればいいのか?」
「ううん。見つけてくれればいいよ。じゃあね」

妙に思ったが、円堂は黙って「わかった」と言いながら頷いた。電話が切れる前に「風丸くんをよろしく」と言っていた気がしたが、かすかな声だったので特に返事もせずにそのまま電話を閉じた。
それよりも風丸は大丈夫だろうか。円堂は豪炎寺に少しだけ用があるから行ってくる、と早口に行って風丸を探しに歩き出した。
といってもやみくもに探しても絶対見つからないだろう。風丸の携帯電話に電話をかけるが、この人ごみの中で電波が正常なのは珍しいことらしく、繋がらない。円堂はとりあえず風丸の行きそうなところに足を運ぶ。ひとつだけ、思い浮かぶところがあった。



「…いた!」

円堂が駆け寄ると風丸は顔を上げ、驚いた表情を見せた。どうしてここにいるんだ?といったような顔だ。円堂は思わず笑みを浮かべる。

「塔内とはぐれたんだってな。探したぜ」
「えっ…ああ、その…」
「?」

円堂は風丸の煮え切らない返事に首をかしげた。「それよりも、」と風丸は話題を変える。「どうしてここがわかったんだ?」風丸は不思議そうな顔で尋ねた。

「ここで去年、願掛けしたじゃん?一緒の高校受かりますようにって」

ここは夏祭りが行われている大通りから少し離れて人も少なくなっている、小さな神社。去年…円堂たちが中学三年生のとき、一緒に来てお賽銭をして、お祈りをした。円堂はそのことを覚えていた。…もちろん風丸も。風丸は苦笑いをしながら「円堂は何でもお見通しだな」そう言った。

「だって好きな奴のことだしな」

円堂は思い切って告白まがいのことを言う。言った後から汗がにじんだ。きっとこの汗は夏の暑さではない。横目で見ると、風丸も顔を赤くし、口を結んでいた。
二人の間に沈黙が訪れた。お互い言いたいことがありそうで、何度も相手の顔を覗き見る。先に沈黙を破ったのは風丸の方だった。

「俺さ、塔内に…ふられたんだ」
「…え?」
「風丸くんは、私のこと見てないからって」
「…そう、なのか」
「なあ円堂、どうして卒業式のとき、別れようって言ったか…わかるか?」

円堂はふるふると首を横に振る。「円堂には、もっとふさわしい奴がいると思って、身をひこうと思ったんだよ」風丸は俯きながらそう言った。

「でも本当は、心では円堂に止めてほしかったと思ってたんだよ」

思わず立ち上がって「俺だって本当は!別れたくなかった!…でも、風丸泣きそうで、泣いてる顔見たくなかったから…」と言った。風丸は今にも泣きそうな顔…まるであの卒業式のときのような顔で、円堂を見つめた。

「風丸、本当の気持ちを聞かせてほしい。俺のこと…好きか?」

風丸は息を大きく吸った。

「好き!大好きだよ!円堂のこと大好きだ!…でも、俺たちは男同士、そんなの変だろ!?」

感極まって大粒の涙をこぼした。何粒のも滴が風丸の頬を伝った。そんな風丸が、円堂の目にはやけに小さく映って、思わず抱き寄せた。風丸の息をのむ音が耳に届く。「変で、いいと思う」子どもに言い聞かせるように、優しく言った。

「変で、いいと思うぜ。なんというか…好きだから仕方ないんじゃないか?俺は、風丸は好き。風丸も、俺が好き。…それでいいと、思う」

円堂はそう言うと、風丸は緊張の糸は切れたかのように、声を上げておお泣きした。円堂は顔の小さな頭を優しく撫でた。





月曜日、今日は久々に部活が無い。円堂は、職員室に用があると言った風丸を校門で待つ。そこで、塔内が歩み寄った。「円堂くん、」「塔内…」円堂は思わず俯いた。気まずいのは相手も同じらしく、同じように俯いてしまった。
「あっあのさ!」しびれを切らして先に円堂が話しかけた。塔内は目を見開いて次の言葉を待った。

「…ありがとな!おかげでその…助かったというか、なんというか」
「…別に助けたわけじゃないわ。でも円堂くん、私は別にあきらめてないからね?」

彼女は不敵な笑みを浮かべて宣戦布告をした。思わず円堂も笑って「おう!」と返事をした。



塔内が去ってから少し経ち、遠くから見覚えのある青が見えた。円堂が手を振ると、そいつも手を振り返してきた。

「ごめんな。待ったか?」
「そんなでもないぜ!」

そう言って円堂と風丸は歩き出した。今日はちゃんと肩が並んでいる。少しだけ円堂よりも背の低い風丸、たまらなくいとしくなって、円堂は思わず風丸に顔を近づけ、唇を合わせた。

「おっおい!円堂!おまっ…こんなとこで!」
「大丈夫だよ、人いねーし」

円堂は笑った。風丸はかなわない、といった風に溜め息をついて、小さく笑った。「ったく円堂は、馬鹿だな」

「そんな俺が好きな風丸も、同じ馬鹿だよな?」

にやりと笑いながら風丸を見下ろすと風丸も微笑みながら「そうだな」と言った。
円堂と風丸は、もう一度唇を合わせた。

16番目の夏は、まだ始まったばかりだ。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -