「…はあ」
今日何度目かわからない溜息をついた。「…はあ」またひとつ、そしてもうひとつ…。
円堂は珍しく、暗い表情で学校へ向かっていた。いつもなら元気に溢れてる顔も、今日は元気どころか絶望を感じ取れる。足取りもどこか重々しい。そんな円堂に歩み寄る少女ひとり。
「円堂くん」
「…塔内?おはよう」
噂の風丸の彼女である塔内は、真剣な顔で円堂に立ちはだかる。円堂の身体にも緊張がはしる。
「話があるの」
そう言って連れてこられた場所は、人数の少ない部室棟の裏。数歩前を歩いていた塔内は、ぴたりと止まって、振り向いた。円堂はどきりとしたが「何の話だ?」と構わず言う。
「ねえ、円堂くんって風丸くんのこと好きなの?」
息を呑んだ。
まさか、なんで。円堂の頭は真っ白になった。「どうなの?」塔内は畳み掛けるように言う。その言葉で円堂は少しだけ冷静を取り戻した。
「も、もちろん好きだ」
「友達として?」
「あたりまえだろ」
「…嘘でしょ」
円堂の頬を冷や汗が伝う。「私、聞いたの」まさかそんなはずはない。あの時、誰もいなかったはずだ。
「円堂くんが風丸くんに…」
告白したこと。
まさか聞かれてたなんて、
「おい円堂。おい」
「だめだ鬼道。聞こえてないな」
「何があったんだ…」
円堂は机に突っ伏していた。その様子はまるで屍のようだ。ある意味レアな姿なので、クラスのほとんどが物珍しそうに円堂を見ている。
風丸も例外じゃなく、円堂を見ている。といっても、彼の目線は他のクラスメートたちと違っていた。
「風丸くん、あのね、今週の夏祭り…」
「………………」
「風丸くん?」
雑誌を見ていた塔内は風丸の顔を見た。風丸の目線、そして気持ちが誰に向いてるかがわかった。ようやく風丸が塔内が呼んでいたことに気が付いた。
「ご、ごめん。なに?」
「…円堂くんのこと、心配なんだね」
「はっ!?な、なんで、そんな」
塔内は蚊の鳴くような声で「見れば、わかるよ」と呟いた。すぐに明るい顔になって、「今週の夏祭り、行こうね」と言った。風丸は笑って頷いた。しかし、この時すでに塔内の気持ちは決まっていた。
夏祭りが、近づいている。