梅雨がついに明けた7月の上旬。あれから円堂と風丸の関係は、少しずつ変わりつつあった。ちなみに良くなったわけではない。
風丸は、あれから円堂のことを避け続けている。

昼休み中の教室の中で、円堂は風丸を横目で見た。風丸は、噂の彼女と仲睦まじそうに話している。思わず持っていた紙パックを握る。

「円堂、手」
「へ?」

左隣に座っていた豪炎寺が、簡潔に言った。手を見ることなのだろうか。円堂は己の手を見た。すると、紙パックの飲み口からジュースが漏れていて、手をびっしょりと濡らしていた。紙パックを握ったからだろう。

「あっちゃ〜…」
「どうしたんだ、円堂」

今度は右隣に座っていた鬼道が話しかけてきた。眼鏡越しに見える目は、呆れを表している。「なんでもねーよ」と、円堂は苦笑いをしながら言った。
その様子を、クラスの中でも塔内だけが、訝しげに見ていた。



時計は7時をすでに回っていた。夏の間は部活時間が長いので、他の部活よりも比較的活発なサッカー部は、このように夜遅くまでやる日がほとんどだ。しかし7時であるにも関わらず、空はまだ深い橙色に染まっている。まだ夕方なのではないかと、錯覚させられるほどだ。
そしてまもなく、サッカー部の練習は終わった。円堂はすぐさま風丸のもとへ向かった。

「風丸!その…今日一緒に帰らないか?」
「え?」
「塔内、いないんだろ?もう遅いもんな」
「…そうだけど」
「…やっぱ、俺と帰るの…いやか?」
「そんなことない!」

風丸は目を見開いて叫んだ。円堂も思わず吃驚した。そのあと、にやりと笑って「じゃあ決まりだな!」と言った。



「あのー…風丸さん?」
「…なんだよ」
「そんなに離れること、ないんじゃねえか?」

円堂と風丸の間は、ひと一人分はいるぐらいの隙間が空いている。円堂はそれを見て、苦笑いした。風丸は不機嫌そうな顔をしている。

「なんだよ、なにか俺、したか?」
「別に、なにも」

相変わらず不機嫌そうな顔。「なんかあるんだったら言えよ」と円堂は痺れを切らして言った。風丸は、せかせかと動かしていた脚を止めた。円堂も脚を止めて、風丸を見た。

「じゃあなんで、あん時告白したんだ?」
「なんでって…好きだから」
「なんで、今更したんだよ!」
「…今まで、言えなかったから」

風丸は俯かせていた顔を上げた。大きな目に、大量の涙を溜めていた。円堂は息を呑む。

「あの時に!言ってくれればこんなことにならなかったのに!」
「あ、あの時ってなんだよ…」
「卒業式のとき…別れようって言ったとき」
「だって、風丸が泣きそうな顔だったから…嫌だっつったら泣くかと思って」
「で、でも!嫌だとも言われないともう円堂が俺のこと、もう好きじゃないと思うだろ?!」

円堂は何も言えなくなった。確かにそうだ。「今更、すぎるんだよ…」風丸は、泣きながらそう言って、その場を走って去っていった。円堂は、動くことができなかった。
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