円堂と風丸が付き合い始めたのは中学二年生の頃、ダークエンペラーズのことがあった後だ。
あの出来事を境に風丸という存在がいかに自分にとって必要で、特別で、大切であるかわかった。ただの親友じゃない。幼馴染じゃない。そうじゃなくて、

『お前のこと抱きしめたり、き、きすしたり…そういうことしたくなる意味で、風丸のことが好きだ』

風丸は頬を赤らめて目線を泳がせた。でもすぐに笑顔になって、『俺も』って返事をしてくれた。その日から、二人は晴れて恋人同士となったわけだ。
それから二人は同性だというのにお付き合いなるものを始めた。円堂は同性愛のことを変だとは思わなかった。実際外国では同性の結婚が認められている。そのくらいテレビをちょっと見れば知ることができる。そのくらい、もう世間では認められたものだと思ってた。でも風丸はそうじゃなくて、

『お、おい…円堂、こんなとこじゃだめだって』
『なんで?』
『なんでって…誰かに見られたらどうするんだよ』
『別にいいじゃん』
『よくない!へ、変な目で見られたらどうするんだよ』

こういうやり取りは度々あった。もちろん円堂と風丸が付き合っていることは隠していた。その時から、二人の心はすれ違っていたのかもしれない。今思えば、そうだったかもしれない。

『別れよう』

そう言われたのは中学校の卒業式。円堂は風丸がなにを言ってるのかがわからなかったから、返事もリアクションもできなかった。風丸は念を押すように、『俺たち、別れた方がいい』と、絞り出すように言った。なんで、なんで、なんで?何度も円堂は問いた。

『やっぱり同性じゃ、無理だったんだよ。もう…、無理なんだ』

風丸はいまにも泣きそうな顔を浮かべた。そんな顔されたら、こう答えるしかないじゃないか。

『…わかった』



「あぁっちぃ〜…」

もうすでによれよれになっているYシャツでぱたぱたとあおいだ。4月の時点ではもっときれいだったのに。でもそれだけ入学式から大分時間が経っていることがわかる。…といっても、まだ5月だが。

「しかしなんで5月なのにこんなに暑いんだ…」

円堂はぼやきながらコンビニの袋の中に入っている二つのアイスから一つ取り出す。袋を乱暴に空けると、急いで口に運んだ。すると、冷たさと甘さが口から身体全体へと染みていく。ジリジリと照り付ける太陽は相変わらずだが、少しだけ涼しさを手に入れられた感覚に陥った。

「おいコラ、何先に食べてるんだよ」
「ひゃひぇまる!」

真上にある空と同じ色の髪の毛を揺らしながら、風丸は現れた。風丸も同じくYシャツであおぎながら、コンビニ袋の中に手を突っ込む。

「さんきゅな」

そう言って残っていたアイスを手に取り、口に運んだ。

「ごめんな、校門のとこでわざわざ待たせて。せっかく早帰りだったのに。それにアイスまで」
「いいいい!コンビニに行ってたし、アイスはまあ安かったし、俺が食べたかったから」

風丸はアイスを頬張りながら、微笑む。円堂はその微笑みを見て、胸をどきりと弾ませた。
もう、恋人同士ではないのに。

あの卒業式…二人が別れた日から約二ヶ月が立つ。最初はぎくしゃくしていたが、今では前と同じ様に自然に話せる様になった。もちろん元通りというわけではない。それは仕方ない。
けれど、円堂にとっては風丸とこうして話せること自体が嬉しいから、これ以上望むことはない。これでいっぱいいっぱいだ。

「円堂?」
「…ん?」
「いや、ぼーっとしてたから」

風丸はまた笑った。
何故だろう、これ以上望むことはないはずなのに、
これ以上の関係になりたいだなんて。



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