「よお、円堂」

いつも通り扉を開けると、いつも通り窓のそばに風丸は佇んでいた。

「風丸、話があるんだ」
「…なんだ?」

風丸は怪訝な顔だ。でも俺の目線から逸らそうとしない。俺の真剣な気持ちを汲み取ってくれているのだろうか。俺は大きく深呼吸をした。

「俺、風丸が好きだ」

風丸は、大きな目を更に大きくした。少しばかり頬がピンク色に染まっている。俺は風丸の言葉を待たず、口を開いた。

「俺、風丸と離れるのは嫌だ。自分勝手だけど、でも、いってほしくない」

すると風丸は、顔をくしゃりと歪めた。辛そうな顔で、見ていると俺も泣きそうになってくる。でも、歯をくいしばる。涙は、見せたくない。

「でも、約束は守るぜ」
「約束…」
「成仏の手伝いするって言ったもんな」

視界がだんだん滲んでいくのがわかった。鼻水をすする音が静かな教室でひびく。

「…もう、手伝ってもらったよ」

風丸は、くしゃりと笑った。今にも泣きそうな顔だ。

「俺、ずっと円堂とあいたかったんだ」

一瞬、疑問がよぎる。俺、風丸とどこかで会ったことあるだろうか。風丸は懐かしそうに言葉を続けた。

「6年前、俺が交通事故に遭ったとき、車はそのままいっちまって、人通りの少ない道だったんだ。そこにさ、オレンジ色のバンダナ巻いた子供がきてさ」

どくんどくん、心臓が激しく脈打つ。過去の記憶がどっと溢れ出すような感覚に陥る。

「そいつはさ、サッカーボールをその場に放り出して、『おとなのひと、よんでくるからな!まってろ!』だって。賢そうには見えなかったけど、すげえなあ、って思ったんだ。そいつがさ、」

足りなかったピースがはめられる。そうか、あの時血まみれで倒れていたのは

「お前だよ、円堂」

お前だったのか、風丸。


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