なんで俺は風丸に出会ってしまったんだろう。少しだけ後悔してしまう。
風丸に出会わなければ、風丸に恋をしなければ。こんな苦しい気持ちになることはなかっただろう。
最近、夢にも風丸が出てくるようになった。そこでは風丸は幽霊じゃないんだ。でもいつものように楽しく会話していて、俺はたまらなく抱きしめたくなって、抱きしめようとするんだ。でも、抱きしめようとすると、目が覚める。そしたら必ずこの一言を呟くんだ。

「くそったれ…」



今日もいつも通り登校する。でも自分でもわかるくらい元気が無い。覇気が無いと言うのだろうか。俺が門をくぐると、ヒロトが立っていた。

「おはよう円堂くん。ずいぶん元気がないけど、何かあった?」

ヒロトはエイリア学園という学校から転校したばかりだが、いわゆるイケメンというやつで、すでに大人数の女子から人気があり、現に今、まわりの女子が黄色い声をあげている。
ヒロトは苦笑いをした後、「場所を移そうか」と言った。



俺たちはヒロトの教室に入ると、一つの机を囲んだ。

「で、何か悩みがあるのかい?」

ヒロトは微笑をたやさずに言った。俺はすがるような想いを携えて、言葉を紡ぎ始めた。

「…ある人を助けたいんだ。でも、助けるとある人は俺の前から消えてしまうんだ。もう、二度と会えなくなるんだ」

ヒロトはいつになく真剣な顔で、静かに相槌を打つ。俺は言葉を続けた。

「俺、そいつを助けるって約束したのに、いざ俺の前からいなくなるって思うと、…嫌なんだ。助けたくなくなる。…嫌なやつだよな、俺」
「そんなことないさ」

俯いていた俺は勢いよく顔を上げた。真剣な顔つきはもう溶けて、やわらかなほほえみだけが残っていた。

「円堂くんが嫌なやつだったら、世界中の人が嫌なやつさ。そういうこと思うの、人間だったら当たり前さ。約束でもなんでもしていたって、失うのは恐い。とても恐いものさ。だから嫌なのは仕方ない。俺が円堂くんでも、そう思うな」

ヒロトは小さな口で、流暢に言葉を並べた。一つ一つの言葉が俺に染みていくようだ。

「…でもね円堂くん、別れはそんな嫌なことじゃないんだ。そりゃあ辛いことだ。でもいなくなって気づくこともあるし…」

ヒロトはどこか懐かしそうな眼差しで机を見つめる。ゆっくりと、ヒロトは目を閉じた。

「それに、例え別れてもう会えなくても、思い出に残ってるよ。綺麗事かもしれないけど、いつでも会えるんだ」

ヒロトは目を開けて、花がほころぶように笑った。

「ヒロト…」
「ふふ、ちょっとキザッたらしいかな」

ヒロトはいつになく明るい顔で笑った。なんとなくだけど、ヒロトも過去に同じことがあったのかもしれない、そう思った。ヒロトが励ましてくれている、だから俺も笑顔でいよう。

「ありがとな、ヒロト!」

そう言うと、ヒロトはやわらかく笑った。



俺はもう、迷わない。




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