まさか。まさかまさかまさか。ありえない。ありえないありえないありえない。
俺が目の前にいる奴を、好きになるなんて。

「どうしたんだ?円堂」
「ぅあっ!あ、いや…なんでもないです」
「?」

目の前にいる奴というのは、風丸一郎太というやつだ。大きい目、小さな口。長いまつげ、綺麗な髪。どれをとっても女のようだが、男だと言う。しかし女が嫉妬してしまいそうなほど綺麗なのだが、彼は幽霊なのだ。6年前交通事故で亡くなったらしい。
そんな異例中の異例な存在、風丸一郎太に、恋をした。

「変な円堂」

そう言うと風丸はくすくすと小さく笑った。
あれから好きだということを自覚したから、ちょっと笑っただけで胸がどきどきしてしまう。おかげで心臓がもたない。
一瞬、沈黙が訪れる。俺は沈黙を打ち消そうと、話題を転換させた。

「そ、そういえば風丸、成仏しそう?」
「え?あー…もう少し、かな?」

風丸は言葉を濁すようにいった。だが風丸も正確にはわからないのだろう。俺は幽霊ではないからわからないが、感覚的なものなのだろう。
そういえば成仏したら…風丸っていなくなるのか?
俺は風丸に目線をむけると、すっかり真っ暗闇のグラウンドを懐かしそうな眼差しで見ていた。

風丸がいなくなったら。
幽霊だからいつかいなくなってしまうことはわかっていた。でも、いざ目の前にすると、手放したくない。その気持ちが何倍も風丸を救うことより勝っている。

(でも、だめだ)

俺は風丸を手伝うって決めたんだ。その約束を破るわけにはいけない。

(…どうすれば、いいんだ)

「円堂、なんか険しい顔してるぜ」

風丸は心配そうな顔で俺の顔をのぞきこんだ。思ったよりも近くてびっくりしたけど、俺は笑顔を作って

「なんでもない」



俺はジレンマに陥った。


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