「随分ご機嫌だな」

そう言って豪炎寺は俺の前の席に座った。朝のHRより前にこうして雑談するのは久しぶりかもしれない。いつもぎりぎりで登校してたから。

「今日だって来るのが早いしな。何かいいことでもあったか?」
「…秘密!」

そう言いながら俺は風丸の顔を心に思い浮かべた。
学校から家に帰った後、俺はお母さんに酷くしかられた。遅くなるならちゃんと連絡しなさいとか何とか。多分これから毎日遅くなるって言ったら複雑そうな顔をしながらも承諾してくれた。きっと特訓するんだと思われたな…。ちなみに本当の理由は言うまでもない。

「秘密っていわれると気になるな」
「秘密ったら秘密だ!…あ、後これから一緒に帰れないかも…」
「…それっていいことと関係あるのか?」
「う、うん」

豪炎寺は不思議そうな顔をしつつも「そうか」と笑顔で頷いてくれた。
その後先生が教室に入ってきて、雑談は中止となった。

(…早く風丸と会いたいなあ…)



「お疲れ様でしたー!」

部活も終わり、空はオレンジ色に染まっていた。俺は急いで制服に着替えてあの場所へと向かう。足取りが軽い。こんなにもワクワクしているのはサッカー以外では初めてだった。一秒でも早く、会いたい。

「風丸!」

勢いよく教室の扉を開けると、昨日と同じ場所に立っていた。驚いた顔をした後、花がゆっくりと綻ぶように笑顔になった。俺も同じように笑顔になった後、扉を閉めて風丸の元へ歩み寄る。

「よっ、風丸」
「…来てくれたんだな、円堂」
「当たり前だろ!約束だからな」

昨日交わした約束、成仏を手伝う約束。風丸は「ありがとう」とか細い声で言った。



「でな、鬼道ってやつがお茶をご飯の上にこぼしてさ!食べてみたらお茶漬けみたいだった」
「食べたのかよ…」

俺は今日学校で起こった出来事をたくさん話した。風丸は相槌しつつ、たまに笑ったり呆れたり、様々な表情を見せた。俺も時間を忘れて口を動かし続けた。

「…あ、円堂。もう時間やばいんじゃないか?」
「え?…あ、本当だ…」

携帯を開いて時間を確認すると、もう30分経っていた。時間が過ぎるのは本当に速いと思う。

「じゃあな」
「風丸…。…じゃあな!また明日!」

手を振りあって俺は教室を出た。この教室に来るまでは軽い足取りだったのに、今はこんなにも重い。まるで重りがついているみたいだ。何度も後ろを振り返る。俺は風丸とのお別れが惜しいんだ。30分じゃ足りない、一日中一緒に居たい。

(それに俺、風丸のことあまり知らない…)

どんな性格なのか、何が好きなのか、何が嫌いなのか。
知りたい。なんでだろう。風丸は幽霊なのに。




「どうしたの守、浮かない顔ね」

俺は箸を止めた。お母さんも箸を止める。

「何かあったの?けがでもした?」

お母さんは心配そうな顔で言う。俺は相談しようか迷ったけど、悩むのは俺には似合わない。俺は口を開いた。

「なんかさ…ある人のことがすごい気になるんだ。そいつのこと俺何も知らなくて、知りたくてたまらないんだ。そいつのことで頭いっぱいで…変かな、俺」

そう言うとお母さんは「まあっ」と声を漏らした後、笑顔になった。優しい笑顔、お母さんはにこにこしながらこう言った。

「守、その感情を人はね、」

「恋っていうのよ」


俺は幽霊に恋をした。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -