いつだったっけ。
昔のことだ。サッカーというよりは玉蹴りをした帰りに、知らない人が道路に血まみれで倒れていたんだ。とにかく焦った。何度か呼びかけてみたけど、反応が無かった。だから、近くにいた大人の人に救急車を呼んでもらった。今思うとその時の行動はすごいと思う。
でも、助けられなかった。その後、死んだことを聞かされた。もうちょっと見つけるのが早かったら。大人の人を呼ぶのが早かったら。助けられたのかな。
それが今でも、悔しいという気持ちで心にひっかかっている。





「ねえねえ知ってる?雷門中の七不思議!」

マックスは人差し指をたてながらそう言った。俺はそういった類はあまり得意ではない。もちろん「知らない」と言いながら首を横に振った。

「あーじゃあ教えてあげるよ」

そう言うと得意げに雷門中の七不思議とやらを饒舌に話し出した。俺はユニフォームから制服に着替えながら聞いていたが、右から左へと流れていってしまった。ちゃんと聞いてしまうと、今日トイレに一人で行けなくなりそうだったのだ。

「んで、これが七つ目!」

マックスはずいっと顔を近づけてきた。俺は息を呑んだ。

「2階に使われてない少人数教室があるでしょ?あそこに…長い髪の女の霊が出るんだってさ!」
「…ってそれ俺のクラスの隣じゃん…」
「ああ、そうだっけ」

マックスは知らんぷりしたが、わかってて言ったに違いない。俺がじろっと睨むと「ほらほら、下校時間だよ」と話を逸らしてしまった。俺はため息をひとつついた後、自分のかばんを肩に下げて部室を後にした。



「あ、やべ…」
「どうした円堂」

隣に居た豪炎寺が俺の小さな呟きに反応する。「宿題、教室に忘れた」やっぱり忘れていた。多分机の中だ。しかも明日提出、忘れたら怒られる。俺は冷や汗をかいた。

「まだ間に合うから取りに行ったらどうだ」
「豪炎寺」
「ついていかないぞ」
「まだ何も言ってないじゃんか!あうううう…」

「じゃあな」と豪炎寺はさっさと去って行ってしまった。俺はしばらく正門で佇んでいたが、深呼吸して校舎へ向かった。怖いけど仕方ない。さっさと取って家に帰ろう。そう思って、俺は走り出した。

ギシ、ギシ、と鳴る度俺はびびりながら階段を一段一段、慎重に上った。すでに電気は消えているため、足元がおぼつかないのだ。2階にやっと着いて自分の教室に入ると、一直線に自分の机に向かい、宿題を引きずり出した。

「あった…」

よし、さっさと帰ろう。そう思って一歩を踏み出すと、
カタン。
誰もいないはずの隣の教室から、物音が聞こえた。

俺は教室を出て隣の教室をのぞいた。
誰もいない。そういえばこの教室は少人数教室だ。俺は今日マックスから聞いた雷門中の七不思議の七つ目を思い出した。
何故だろう。怖いのにも関わらず、好奇心のせいで教室に俺は足を踏み入れた。すっかり暗くなっているのに、この教室は月に照らされていて妙に明るかった。
周りを見渡すと、ほこりまみれになっているダンボール箱や、教材の山が積まれている。使われていないのは本当のようだった。
その時、視界のはしで長い髪が揺れたような気がした。俺は勢いよくその方向に向くと、
誰もいなかったはずなのに、長い髪の女の人がいた。

「どわーっ!!!!」

俺は思わず叫び声をあげた。すると、その長い髪の女の人が振り向き、俺を見た。
あ、よく見たら女じゃなくて…

「な、何してるんだ!」
「先生!」

教室の外に見知った先生がいた。さっきの声で駆けつけてきたんだろう。

「すみません。宿題取りに来たんですけど転んじゃって」
「大丈夫なのか?それにここは少人数教室だぞ」
「あー…あはは、すみません暗くて見えませんでした!」
「全く…早く宿題を取って家に帰れよ」

「はーい」と返事すると先生は去っていった。ふう、とため息をついて、また前を向いた。
確かに、人がいた。目が合っている。

「お前…」

目を見開いているその人は、確かに美しく女のような顔つきをしているが、雷門中の学ランを着ているので、男なのだろうか。それに長い髪は長い髪なのだが、その髪をポニーテールに結っていた。
どうしよう、話しかけるべきなのだろうか。俺が口を開くよりもその人が先に口を開いた。

「お前…俺が見えるのか?」
「…………え?」

俺は改めて雷門中の七不思議の七つ目を思い出した。

『2階に使われてない少人数教室があるでしょ?あそこに…長い髪の女の霊が出るんだってさ!』

どうやらこいつは、幽霊らしい。


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