6年前、助けられなかった人が目の前に幽霊として現れる。これは運命と呼べるほど、奇跡なんじゃないだろうか。
「あの時、助けてくれたお前に一言お礼が言いたかったんだ。ありがとう」
「で、でも俺…助けられなかった。もっと早く動いていれば」
「お前のせいじゃない。仕方がなかったんだ」
風丸はとても優しい笑みを浮かべた。俺は泣きそうになり、目頭が熱くなってきた。
「…最初から、気づいてたのか?」
「ああ」
「じゃあ、なんで最初から俺にこの事を言わなかったんだ」
「仲良く、なりたかったんだ」
風丸は今にも泣きそうな笑顔で言う。話してみたかった。だから、わざと何も言わなかった。
「でも、ちょっと、後悔してるんだ」
俺が首を傾げると、風丸は俯いた。そして、顔を上げると、頬に涙の跡が浮かんでいた。
「俺幽霊なのに、好きになっちゃった」
その瞬間、せき止められていた水が流れ出るように、風丸の大きな目から大量の雫が流れ落ちた。
「かぜまる…」
「馬鹿だな、俺…こんなんじゃ抱きしめてももらえないってのに…」
「風丸!」
俺は咄嗟に風丸に手をのばした。でもその手は風丸の身体をするりと通り抜けてしまった。俺は顔を歪める。改めて幽霊だということを実感した。
「無理だよ、俺に触れるなんて。それに多分、もう少しで消える。きっと、俺のことなんて忘れちゃうぜ」
「そんなことない!」
俺は声を張り上げた。風丸は大きな目をまん丸にした。俺は肩で息をする。
「絶対忘れない。風丸のこと、忘れない!俺、風丸のこと、ずっとずっとずっと好きだから!!」
風丸は今も流れ続ける涙を手の甲で拭った後、今まで見た笑顔で一番、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとう。大好きだよ、円堂」
その瞬間、風丸の身体が徐々に透けていることに気がついた。俺は必死に触れようとする。でも手は無情にも空気を掴んでばかりだ。
「俺も!俺も風丸のこと大好きだから!」
視界がにじんで風丸の顔がよく見えない。最後に見えた風丸の顔は、笑顔だった。
「…っ、風丸ーっ!!」
あれから更に10年が経ち、24歳になった。
「風丸、久しぶり。元気にしてたか?」
手を伸ばすと、ひんやりとしていて、硬い感触が手から伝わってくる。
俺は今日、墓参りにきていた。
「俺、元気だよ。お前は?」
水をかけながら話しかける。少しだけ汚れていた墓も、すっかり綺麗になっていた。俺は優しく墓を撫でる。
「…なあ風丸、今日さ、夢を見たんだ。俺はサッカー部のキャプテンなんだけど、なんとお前がDFとして同じサッカー部なんだ。あ、もちろん幽霊じゃないぜ。でも、変わらなかった。変わらなかったよ、何も」
俺はゆっくりと立ち上がった。何だか、風丸が笑っているような気がした。俺も自然と口角が上がる。
「大好きだよ、風丸。…また、出会えたら、そん時は」
いっぱい、抱きしめてやるからな。