「まも、る?」
いつまでも口を閉ざす守の名前を呼んだ。
「いち兄、俺、言いたいことがあるんだ」
1つ1つ、噛みしめるように言葉を紡ぐ。胸がどくん、どくん、と激しく脈打つ。
「…俺、いち兄が好きなんだ。
あの頃から」
守は眉尻を下げ、辛そうな表情でそう告げた。
「あの時約束したよな。18歳になったらまた告白するって。…約束、守ったぜ」
俺はどうして良いかわからず、渇ききった喉を少しでも潤そうと唾を飲み込んだ。
「…いち兄、俺と付き合ってください」
そんなこと言われても。俺守のことは弟としか見てなかったし。あの約束だって本気じゃなかった。
それらの言葉が口に出ることはなく、みっともなく口が開閉を繰り返すだけだ。
「…はっきり言ってくれ。…付き合って、くれるか?」
念を押すように、守はもう一度言った。
こんな守、知らなかった。元気で、明るくて、辛そうな顔なんてあまりしない。
俺は、守が好きなのか?
弟として?
…男として?
わからない。わからないよ守、
その時、3年前のことが頭をよぎった。
「…俺、は」
「俺は?」
「…守のことは、弟としか見れない」
「………!!」
守の大きな目が更に大きく見開かれた。
「…ごめん」
「……………………」
守の顔は影でよく見えない。黙りこくっている。
一瞬の静寂の後、守はへたくそに笑った。
「そっか!うん、俺こそごめんな!男同士なんて変だよな!うん!」
「まも、る?」
早口で話しながら俺から身を引き、バッグを手に持った。
「守!」
「…ごめん、今日は帰る!今までしつこくてごめんな!あ、プレゼント、ありがと!」
「まも」
守は一方通行にまくしたて、ドアの向こうへ消えてしまった。
静寂と胸の痛みだけが残った。
「(…これでいいんだ)」
あいつは良い奴だ。すごく魅力的だと思う。
だからこそ、男である俺なんかじゃなくて、あの木野さんっていう人とかと付き合った方が良い。
「これで、良かったんだよ、な…?」
なんでこんなにも胸が痛いんだよ。
いつまでも止まない痛みに、眉をひそめた。