「…………なんだよ緑川かよ…」
「え、何?何その溜め息」


俺は安堵感も込めて大きい溜め息をついた。緑川は抹茶色の髪を揺らして俺の顔を怪訝な顔で覗き込んだ。


「いや、その、…いるんだ」
「?誰が?」


緑川は顔にハテナマークを浮かべた。俺は足りない言葉を付け加えた。


「…守が」
「あ、あの幼なじみかあ。…俺に気を使ってるの?別に行ってもいいよ?」
「いや違う。…女子といるんだ」


緑川はきょとん、とした顔から驚きに満ちた顔へ変貌していった。


「…えぇぇ!?」
「しっ!気づかれるだろ」
「なんで隠れる必要があるの?」
「邪魔しちゃ悪いだろ…」


唇に人差し指をあてがった。ちなみに今守は未だに何かを探しているらしい。運が良いのかはわからないが、まだ見つかっていない。


「…風丸、気になる?」


緑川はにやにやと口元を緩めながら問いかけてきた。思わず「は?」と声が漏れた。


「ななななに言っててててんだだだよよ。きききににになるるはずずずなななないだろ」
「風丸、噛みまくり」


俺は汗を拭った後咳払いをし、「気になってない」と言い直した。


「…風丸、この後予定とかある?」
「いや何も」
「尾行する?」
「……………はっ!?」
「よし決定!さ、行くよ」


周りに"ウキウキ"という文字が浮かび上がっていそうな程満面の笑みを浮かべた緑川は、俺の手を取った。俺はすぐ制止しようとする。


「ま、待てって!いくらなんでもそれは」
「俺尾行とかしてみたかったんだよねー」
「そういう問題じゃ」
「風丸も気になるでしょ?」


そう言うと緑川は振り返り、不敵な笑みを浮かべた。図星をつかれて何も言えなくなった。


「じゃあこのままどっか行く?別に俺はいいけどね」
「そ、それは…」


正直守のことは気になる。だが尾行となるとやはり申し訳ない。だが気になる。


「う、ううう…」
「…もー!バレなきゃ大丈夫だって!」


緑川は痺れを切らしたのか、思い切り俺の手を引っ張って歩き出した。


「え、ちょ…」
「しーずーかーにー」


静かにするのはお前だろ、と心中で呟き、俺は仕方なく目の前の友人に従うことにした。

何やら、大波乱な1日になりそうだ。


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