「ま、部活が無い間は放課後を自由に過ごそうよ」
緑川の陽気な声に俺と鬼道は微笑んだのち、頷いた。
「今日はどこ行こうか」
俺は二人に聞くと、鬼道が「すまないが」と切り出した。
「今日は雷門中に行きたいんだが」
「「雷門中?」」
何でも佐久間って奴に「是非練習風景を見に来てください!」と言われたらしい。ちなみに不動って奴は「来るんじゃねーぞ!」と言われたらしい。何とも口が悪そうだ。
「そういえば俺も守と約束してたな」
「俺もヒロトがいるし、見たいな」
三人の意見一致により、雷門中へ行くことに決まった。
「やー、久しぶりだね!」
まだ卒業してから1ヶ月も経ってはいないものの、既に懐かしい風貌となりつつある雷門中。今、俺たちは無駄に豪勢な門の前に立っていた。
「…というか入っていいんだよな?」
不安になったのでそう聞くと「卒業生は出入り自由なはずだ」と鬼道が答えた。
「じゃあ入るか」
マントの代わりにブレザーを翻して鬼道は門をくぐった。緑川、そして俺も続く。
そこで、不思議な感覚に陥った。今まで見慣れていた風景、コンクリートの感覚が、全て新しいもののように思えてきた。
「(…心境が違うからかな)」
俺は落ち着かずに周りをキョロキョロ見回した。すると、鬼道が「あ、」と声を発した。
「サッカー部じゃないか」
「え、どこどこ?」
緑川がずずいっと身を乗り出してグラウンドを覗いた。俺も真似してそうする。
「…なーんか、後輩たちが別人みたい」
緑川の呟きに思わず二、三回頷いた。そこでは新たに加わった後輩たちに、以前後輩だった奴らが"先輩"として教えていた。
「(……………あ)」
数多くいる部員の中でも一際目立って見える少年が居た。
「(…いた)」
守だ。ボールパスの練習をしている。オレンジ色のバンダナがグラウンドの中でよく映えていた。