「あー…そうだったっけな…」


今思えばあの時の自分は身勝手だったと思う。いち兄が足が速くて陸上にも憧れを持っているのを知っていながら、勧誘をしたのだ。


「何か…ごめん、いち兄」
「なんで守が謝るんだ?」
「だって…無理矢理押しつけたみたいだったから」


俺は俯きながら片手を首に回した。手を動かさないと、なんとなく落ち着かないのだ。


「…押しつけとかじゃねーよ。俺は見学に行って、サッカー楽しそうだなって思ったから入部したんだ」
「…………でも、陸上部入りたかっただろ?」
「まあちょっとはな。でも、サッカーもやってみたかったんだ」


「だってさ、」と言っていち兄は間を置いた。


「守と同じ世界が見れると思ったからさ」
「……………………え」


いち兄は照れくさそうに笑った。


「守、昔からサッカー好きだろ。俺もサッカーやれば守と同じ世界が少しでも見えるのかなって…はは、何言ってんだろ」


いち兄は赤く染まった顔を隠すように顔を背けた。俺も次第に熱が集まっていった。


「あ、ありがと、う?」
「…ははっ、なんで疑問形なんだよ」


いち兄は声を上げて笑った。その笑った顔に、またどきりとする。


「(…胸が破裂しそうだ)」


何故こんなにも近くに居るのに気持ちは絡み合わないのだろうか。俺の一方な恋心は叶わないのだろうか。


「(…辛いよ、いち兄)」





「………守?」
「………えっ…あ、な、何?」
「何って…ボーっとしてたから」


つい考えすぎたみたいだ。さっきまで脳内で響いてた言葉を打ち消した。


「…何でもない!あ、もう家着いたな」
「あ、そうだな」


気がつけば目の前にいち兄の住んでいる家があった。


「(…もう、さよならなんだ)」


俺は目尻を下げた。これからお互い忙しくなるだろう、会える機会も少ない。じゃあな、と手を降るいち兄のブレザーの裾をつまんだ。


「…守?」
「いち兄、俺、いち兄のこと、」


好き。その言葉が口から出ることは無かった。何故なら、喉で詰まってしまったからだ。


「(決めたんだ)」


俺は、18歳になった時、二度目の告白をするんだって。


「…俺のことが、何?」


いち兄は端正な顔を斜めに傾げた。


「…何でも、ない!」


俺は手を離した。


「変なの」
「ひひっ。ねえ、いち兄」


俺はにかっと笑いを見せた後、

「サッカー部、見に来てよ」

そう言った。


「サッカー部?」
「うん。暇な時にさ、見に来て。あ、本当は試合とかが良いけどまだ先だからさ…」
「はは。うん、行くよ。試合も見に行く」


そう言って目を細めて微笑んだ。俺も不器用な微笑みを返した。


「約束だからな」
「うん」


挨拶を交わした後、俺たちは別れた。


「見に来てくれる日、楽しみだな!」


俺は夕焼け空に向かって言った。空が、笑ったような気がした。



‐‐‐‐‐‐‐‐
いち兄は守の恋心に気付いていません。あくまでも『自分は兄として好かれてる』という認識。守かわいそす…(笑)


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