「…それにしても」といち兄は俺を見つめながら呟いた。
「え?何?」
「あ、いや…」
いち兄は頬をぽりぽりと照れくさそうにかきながら、言葉を紡いだ。
「この前までさ…小さくて可愛かったのにさ」
一旦言葉を区切って俺を見据えた。
「なんか…かっこよくなったな、って、」
ボンッと効果音がつきそうなくらい急激に熱が集まり、沸騰した。
「(か、かっこいいって…!)」
俺も負けじといち兄を褒め称えた。
「い、いち兄も髪切ったりブレザー着たりして、もっとかっこよくなった!」
「えっ、…そ、そうか?」
いち兄はゆるり、と頬を赤らめながらはにかんだ。かっこいい、そうは言ったものの、いち兄はやっぱり可愛らしい。
「(だから好きなんだ)」
俺は中学生に進級したけども、気持ちは一切変わっていなかった。もちろん、好きなまま。
俺は火照った顔を誤魔化すように話題転換をした。
「そ、そういえばいち兄は何部に入るの?」
「もちろん、サッカー部」
即答だった。俺の好きなサッカーをいち兄も好いてくれることがたまらなく嬉しい。自然と頬が緩んだ。
「守、ありがとな」
突如、優しい笑顔と共に言われたので面を食らってしまった。何のことだがもちろん身に覚えはない。
「俺に、サッカーを教えてくれて」
「…………………あ」
いち兄のその言葉で、ちょうど3年前の今ぐらいの時の光景がフラッシュバックした。
『いち兄、部活は何にするの?』
『んーまだ決めてない。なんで?』
『サッカー部に入ってほしいんだ!』
『サッカー?』
『俺ちゅうがくせーになったらサッカー部に絶対入る!そしたら、おそろい!』
『…ぷ、あはは』
『な、何がおかしいんだよー!』
『いや何でも。明日見学に行くよ。ちょうど友人も見学に行くらしいから』
『やったー!入ったらほーこくしてね!』
『ああ、わかった』
そうだ、思い出した。俺が『サッカー部に入って』そう言ったんだ。