嫉妬。
人によってはされれば嬉しいし、人によってはされれば嫌だと感じる人もいる。俺は無論前者の方だ。風丸はどっちかはわからないけど。

俺はただ今嫉妬中。

今までにも何度か嫉妬することはあった。その度に器の小ささを再確認する。なんでこんな小さいことで嫉妬するのかなあ、と。嫉妬の矛先は俺の後輩でもあるのにな。

遠くに見えるのは水色の髪の毛を携えた俺の恋人である風丸、そしてそばに一つ下なのに俺よりも身体が大きい壁山と部内でも背が比較的小さい部類に入る栗松。
三人は同じDFだからか仲が良い。風丸は元々面倒見がいいから後輩から好かれているが、二人からは特に尊敬され、好かれている。風丸も二人のことをよく面倒見ている。だから談笑することはしばしばだ。
そんなことを考えていたからなのか。あっちの三人は休憩中。俺は染岡のシュート練習に付き合っていた。
「円堂君!」秋の声で、目の前までボールが迫っていたことに気がつかなかった。



「ったく円堂…お前本当に馬鹿だな」

はあ、と何度目かわからない溜め息をついた風丸。「まあいいけど」と言いながらキンキンに冷えた氷水がたっぷり入った袋を先程ボールが当たった箇所にべちっと乱暴に当てた。

「いって!」
「我慢しろ。ボーっとしてた円堂が悪い」
「ボ、ボーっとなんてして…いや、してたか?」

歯切れの悪い返事をしたら、風丸は「なんだよ」と小さく笑った。俺はドキリと心臓を跳ね上がらせた。

「ボーっとしてないなら何してたんだ?」

笑いながらそう問われた。俺は言葉につまった。「嫉妬してた」なんて言えない。俺は視線を泳がせると、風丸はまたぷっと笑い声をもらした。

「言えないことでも考えてたのか?」
「ばっ…!ちが!」

俺は顔から火が出そうになった。風丸はよりいっそう笑い声を上げた。「そんなに笑わなくたっていいだろ!?」と言ったら風丸はひーひー言いながら次第に落ち着きを取り戻し始めた。

「ごめんごめん、つい」
「…まあいいけど」

俺は氷水の袋を一旦離した。「でも、」と風丸が話し始めたので、俺は風丸に顔を向けた。

「余所見はするなよ。今回は腫れたぐらいで済んだけどさ…」

風丸はまぶたを伏せ「心配、してるんだからな」と言った。俺が「風丸…」と感慨深く言うと、風丸は

「…い、今の無し!」

と顔を真っ赤にさせて「それより!」と話題を無理矢理転換させた。

「もしかしてお前俺に嫉妬してたんじゃねえの?壁山と栗松と喋ってたからな。なんてな」
「…え」
「え?」

まさかこの話の流れで核心をつかれるなんて思っていなかったから、「ちげーよ!」と反論することもできず、ただただ黙っているしかできなかった。

「え…ちょ、まじ?」

風丸はさっきよりも顔を真っ赤にさせて慌てふためいた。俺は黙ってこくりと頷いた。

「え…あ…」
「…わ、悪いかよ…」

俺がそう言うと風丸はぶんぶんと勢いよく首を横に振った。

「ぜ、全然!む、むしろう、うれし、い」

途切れ途切れになりながらも風丸は一生懸命言葉を紡いだ。すると、一瞬の沈黙が訪れた。

「おっ、俺練習に戻る!!」
「お、おう!!」

ガタッと勢いよく立ち上がり、風丸は保健室を去っていった。

手の中にあった氷水はいつの間にか人肌にまで暖まっていた。



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相互記念小説でした。
鞠亜さんのみお持ち帰り可!


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