焦りすぎて縺れそうになる足を必死で制御しながら走る。折角の昼休みをこんな気持ちで消費してしまうなんて勿体ない。階段の最後の5段をジャンプして一気にとびおりた。
円堂が4時間目の体育の授業でひどい怪我をしたらしい。そんな知らせを聞いて、教室から1階にある保健室に向かっている。たいしたことない距離のはずなのに、この異常なまでの不安を抱えて走るのは途方もなく長い距離に感じた。
「…円堂!」
白い引き戸を勢いよく開けると、保健室の中にはきょとんとした表情でベッドに横たわる円堂がひとり。机にはお昼を食べに職員室に行っていますと先生のメモが残されていた。
「あれ、どうしたんだ?そんなに焦って」
「おまえが大怪我したって聞いてきたんだけど…」
「ああ、体育で野球部のやつが投げたボールが頭に直撃してさ、脳震盪?ってやつで倒れたらしいからすごい騒ぎになったけどすぐ意識戻ったぜ」
しばらく安静にしてろって言われた、と笑いながら円堂はバンダナをめくった。痛々しいこぶに思わず息を呑んだ。
それでも意外に元気そうな円堂の姿に力が抜けた。取り乱した自分が馬鹿みたいだ。円堂のベッドの横の椅子に腰掛けると、大きなため息が出た。
「…はあ、一気に疲れた」
オレがそう言うと、円堂はふわりと微笑んで掛け布団をめくった。
「せっかくだから風丸も休んでくか?」
他にも空いてるベッドはあるというのに、円堂は自分のベッドに来いという態度だ。
円堂に促されるままベッドに入り込むと、体育の後だからか汗くさい円堂のにおいと、保健室独特の薬品臭が混ざって変なにおいがした。
「…やっぱ頭痛い?」
「んー、めちゃくちゃ痛かったけど今はすこし痛いくらい」
「たいしたことなさそうでよかった…おまえに、なにかあったらどうしようって…本気で焦ったんだぜ…」
やばい、さっきまでの焦ってた気持ちとは打って変わってほっとしたら、円堂の体温にふれたら、安心して気が抜けて泣きそうになってきた。
「心配かけてごめんな」
ぎゅう、と腰のあたりを締め付けられる感覚がする。どうやらオレは布団の中で抱きしめられているらしい。
「でも、風丸がそんなに心配してくれるなんて、怪我して得したな」
「馬鹿いうな!怪我しないよう気をつけろよ」
「わかってる」
気がつけば息が全部顔にかかるくらい、円堂の顔が近づいていた。反射的に目を瞑ると、頬を優しく撫でられた。
「もう、風丸を泣かすわけにはいかないもんな」
円堂はいつのまにかオレの頬を流れていた涙を拭っただけみたいだ。てっきりキスされるかと思ってしまったことが恥ずかしくて、顔を逸らそうとしたら今度は唇に先程期待した通りの柔らかい感触。
「ごちそうさま!」
「…馬鹿円堂」
「はは、真っ赤になって言われてもなあ」
そんなやりとりをしていると、5時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「風丸、チャイム鳴った」
「聞こえなかった」
視線が交差して、お互いにやりと笑い合う。一瞬で何を考えているかわかってくれるこの感じが心地好い。
「…オレもひとりで安静にしてるの、飽きてきたところだぜ!」
チャイムも授業も、今日だけ知らないふりをしよう。今は円堂と一緒にいられることの方が大事な気がした。
保健室に戻ってきた先生にたっぷり説教されたのは、またその後の話。
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バッチリ●RECしておきました、ご安心ください。
うひゃあああありがとうございました!!可愛い円風…うまいです…。保健室をラブホ代わりにしてちゅっちゅすればいいよ。