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大学の同級生Eの証言


ねえ、アンタ。あの人のこと聞きまわってるって聞いたんだけど、ホント?

よ、よくご存知で。

この前見てたし、聞いてたからね。

そうでしたか。それなら話が早いです、ご協力願えますか?

ま、いいけど。面倒だから最初の確認はいいから。

……ありがとうございます。

なんか不満そうな顔してるけど?

いえ、蛙の子は蛙だなと思いまして。まあそんなことはどうでもいいとして、お言葉に甘えさせてもらいます。



Q2.彼女とのご関係は?


同級生。

……同級生?

何、アンタそんなこと知らないの? 確かにあの人はオレの一つ上だけど、一年浪人してたからオレと一緒なわけ。

ああ、なるほど。そういうことでしたか。しかし彼女が浪人するような人には見えないのですが。

それだけ難しいってこと。美術系で浪人なんてザラだし、一浪なんてまだマシなほうだってあの人言ってた。っていうか、アンタそんな無知でよくこんなことできるね?

うっ、それについてはあまり深く追求しないでいただけますか。

……で、次は?



Q3.彼女と出会いは?


出会い?

そうです。まあ、彼女のことを気にするようになったきっかけですね。

きっかけね……。







あの人を初めて見たのは入学式の時。

うちの大学の入学式って新入生が多すぎるから午前と午後に分かれてるのは知ってるよね?

俺は午前で当然あの人も一緒。

入学式ってこれからの生活に浮かれるか、緊張してがちがちに固まるかのどっちかで、オレとしてはそんな周りにうんざりしてたわけ。

理由? たぶん入学式そのものが面倒でちょっとイラついてたんじゃない?

そんな中、あの人だけは違ってた。

浮かれるわけでもなく緊張してるわけでもなく、落ち着いていた。

そういう奴はほかにもいたし、特別珍しいわけでもない。

最初はそれだけだったんだけど、だんだん気持ち悪いって思い始めた。

あの人は淡々としすぎていた。

オレだって普通にしてたけど、それでもさっき言ったようにちょっとイライラしてたし、ほかの奴らも多少なりともほかの感情に振り回されてた。

それなのにあの人は“そういうの”が一つもなかった。

ただただそこに在るだけ。

外界すべてから切り離されたようにそこだけ全てが凍りついたように止まってるように見えた。

そういうわけで第一印象は気持ち悪い、不気味な人。

あ、これ本人に言ったら承知しないから。

もし言ったら、神の子から天罰がくだるかもよ。

次に見たのはフランス語学で。

他の人と挨拶とか軽い世間話とかはしてたけど、誰かの隣に座ることはないし、やっぱり入学式の時と同じで纏う雰囲気は変わってなかった。

ちなみに今オレが座ってるこの席があの人の指定席。

オレも興味本位で何回か話したことあるけど、それだけだった。

ああ、そういう人なんだなって彼女に対する印象はなにも変わらなかったし、ずっと変わらないと思ってた。

どうして変わったかっていうのはいまから話すんだから口挟まないでよ。

転機はその年の冬。

芸術学部の展示会があって、何故かある人に巻き込まれて見に行ったとき。

巻き込まれた理由は知らないけど、興味なんてなかったし、鑑賞してるふりしてそのうち抜け出そうとしたらふいに背中を刺されるような視線を感じた。

変な胸騒ぎがして振り返ってもここにいる人たちは全員作品に夢中になってたから誰ひとりオレを見てる人はいなかった。

だけど、目があったんだ。

ひとりの女性とね。

正確に言えば、絵の女性とだけど。

全体的に白と黒、暗い色で彩られた自己主張が小さい絵とその単調で静かすぎる空間はその周りの絵がどれも色鮮やかで華やかすぎて逆に目を引いた。

なんてことのない肖像画なのに目が離せなくて、同時に既視感を覚えた。

誰かに似てる……。

そして得体の知れない違和感。

本来の目的も忘れて悶々と見てると、ここに連れてきた張本人が「やっぱり気になる?」っていきなり現れた。

『興味なかったくせに楽しんでるね』って言われてる気がしてそのまま立ち去ってしまえたらよかったんだけど、やっぱり絵が気になってそっぽ向くしかなかった。


「君がどうしてこの絵の前から動けないか、自分ではわからない既視感と違和感の正体を教えてあげようか?」


寸分の狂いもなく急所突いてきた。

突っぱねるのも子供みたいに変な意地張ってるみたいだったから頷いた。


「ヒントは作品の下にある白いプレート」


絵の女性から視線を下ろしていくと、


『タイトル:母 絵画学科一年――』


あの人の絵だった。

ドクンと大げさなぐらい心臓が跳ねたけど、それでもやもやしてたのが全部きれいにはまった。

感じていた既視感は絵の空間と描かれてる女性があの人の雰囲気と本人と一緒。

違和感はあの人本人ではなく似て非なるあの人の母親だったってこと。







しっかりと意識しだしたのはそれから。あの人の纏う奇妙な雰囲気の正体が知りたくて声をかけたのが始まり。

そのようなきっかけがあったんですね。それでその正体はわかったのですか?

はっきり言えば微妙。わかったようなわからないような。ただそんなところも魅力的だと思うようにはなったね。

今、一番お聞きしたいことをさらりと言われたような気がしますが、最後の質問に移らせていただきます。



Q4.彼女のことが好きですか?


愚問だね。同じこと繰り返すつもりはないよ。

そうですか。ご協力ありがとうございました。……最後に一つよろしいでしょうか?

何?

終始ため口でしたが、一応自分の方が――。

だから何?

あ、いや……なんでもないです。



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