Side Extra | ナノ

幼馴染Kの証言


アンタ来んのおせーよ!! 俺をどんだけ待たせる気なんだよ!! 危うく副部長(※サークルの先輩)に殴られるところだったじゃねえか!!

まあまあ落ち着いてください。約束の時間に遅れてしまったことは謝ります。すみません。ですが、一応自分のほうが年上なのですが?

……ん、んんっ! で、俺に聞きたいことって何スか。

おや、ほかの方々から何もきいてないのですか?

今の今まで補講だったから知らねえよ。悪かったな頭良くなくてよ!!

何もそこまで言ってないですよ。まあここ連続して先手を打たれていたこちらとしては嬉しい限りですが。

……やっぱアンタ馬鹿にしてるだろ。

曲解しすぎです。ではそろそろ中身に入らせていただいてもよろしいですか?

ドウゾ。



Q1.この写真の人物をご存知ですか?


あーハイハイ、コイツか。知ってるぜ、嫌ってほどな!!

何を先程から苛立っているのですか。

別に。

……重ね重ね申し上げますが、自分の方が――。

あーあーあーあー失礼しました!! 以後気をつけます。これでいいっすよね。で、コイツがなんなんすか。



Q2.彼女との関係は?


ただの腐れ縁っスよ。中学から今のな。

ほう、それはつまり幼馴染ですか?

幼馴染ってのはもっと小さい頃からのことを言うんじゃないっすか?

さすがに腐れ縁と書くのは気が引けるので便宜上そうさせてください。

別に俺には関係ねーしいいっすよ。……いや、でもここまでくると腐れ縁どころか呪いの域だと思うんすけど。

呪いとはまた面白い表現ですね。

むしろそうとしか考えられねえ。

それじゃあ彼女と長い歳月を過ごしているあなたにお聞きします。


Q3.彼女の嫌いなところを教えてください


嫌いなところォ? まさかアンタ、あのチビのこと嵌めようってんじゃ――。

違います。それは断じて違います。今まで2人の方にお話を伺ってきたのですが、どれも良いお話ばかりだったので、アクセントとしてそういう一面も知りたいのです。

ふーん。まあ悪用しないってなら別にいいっすけど。

嫌いなところならいっぱいあるっすよ。気性荒いし、口も悪いし、態度も偉そうだし、あれが女子とは思えねえぐらいひでえし、生意気で何かにつけて俺をからかってくる、それに先輩方はいいとしてほかの同学年の奴らとはそれなりに仲良さそうだし……あ〜なんか口にするとすっげえイライラしてきた。

たくさんあげてくださるのはありがたいのですが、そういうところではなくもっと内面的なものをですね。

内面的なトコって言われても……よくわかんねえけど、うーん……。あ。

なにかありました?

いま思い浮かんだやつが、アンタの言う内面的なものっていうのに当てはまんのかわかんないっすけど。







話長くなるから今だけタメでいいっすか? ――じゃあタメで。

アイツ毎年夏になると必ず二、三回は倒れんだ。

もともとテニスやってっから体が弱いってわけじゃねえし、バカだから風邪引いたところなんて滅多に見ねえ。

たまに昼飯食いっぱぐれて死にそうになってるのは見たことあるけどな、ざまあみろ!!

いつだってバカみたいに元気なくせに急にぶっ倒れるだぜ? 信じられっかよ。

……まあ、そのうち一回がたまたま俺らのサークルに混じって練習に参加してたときに起こった。

俺だけでなく先輩らですら眉をひそめるような炎天下の中、なんの前触れもなく倒れた。

ある意味自然すぎてとっさに誰も反応できなかった。

突然の出来事に驚きを隠せない俺はなんでか体が急に冷えていくのを感じた。

一方で先輩らが慣れた手つきで軽い熱中症だろうって木陰に運んで休ませることになったんだけど、そこでなんでか俺が面倒見る羽目に。

そんとき試合で滑り込んだ拍子に捻挫してて手が空いてのは俺ぐらいしかいなくてよ。

さすがに病人ほっておくわけにもいかねえし、渋々面倒見ることに。

せっかくのサークル内トーナメントなのに試合はできねえわ、面倒見なきゃいけねえわもう踏んだり蹴ったり!!

コイツが起きたら今までの鬱憤も含め全部ぶちまけてやるつもりだった。

含みのある言い方だって? そんなつもりはねえけど、できなかった。

ちょっと目離した隙にだいぶ回復してた顔色が一転してどんどん青ざめて、大量の脂汗に痙攣。

尋常じゃない変化にさっさと誰か呼びに行けばいいのにそれすら頭に思い浮かばないぐらい動揺してた。

そしたら魘されながらも微かに何か言ってることに気づいて耳を傾けた。

途切れとぎれの単語ををつなげていくと、ある文になった。

こまけえところは伏せっけど、それはアイツの弟に対する後悔と謝罪のもんだった。

呪詛のように繰り返し繰り返し紡がれるその言葉に今度こそ動けなかった。

でも次の瞬間、冷え切った俺の中からドロっとねっとりした気持ち悪いものが生まれて。

土に食い込んでる手を握った。

とっさになんでそんな行動に出たかわかんねえんだけど、昔俺が風邪ひいて酷かったとき、普段鬼畜修羅のような姉貴がこうやって手握ってくれると妙に安心したからそれ真似たんじゃねえかって思ってる。

そんとき思ったんだけどよ。

アイツの手ってあんなに小さかったんだな。

いやテニスやってるから皮膚とかは硬いんだけど、指とか細くてさ。

今まで忘れてたけど、性格くっそ悪いけど、女なんだなっとか思った。

これが意外と効いたみたいで次第に落ち着きを取り戻してった。

それからアイツが回復してコートに戻るのと入れ替わりに部長(※同じくサークルの先輩)が来て話を始めた。

アイツが口にしていたことからだいたい予想はついてたけど、俺が驚いたのはこれが初めてじゃないってこと。

しかももう六年もずっと続いてるらしい。

それまでずっと一緒に過ごしてきたのに俺は全然知らなかった。

知ってる人はごくわずかだよって部長はフォローしてくれたけど、それでも中高一緒だった先輩たちは全員知ってた。

なんかすっげえ惨めになった。

あんだけアイツといがみ合いながら過ごしてたのに、そういうところ全然見てなかったし、何も考えてないノーテンキなやつだとばかり考えてた。

くっそ笑えるだろ、今まで見ようとも知ろうとも知らなかった俺が勝手に仲間はずれにされた気分になっていじけて、ガキか。

だが、アイツも馬鹿だ。

別に死者を思うことは悪いことじゃねえ。

けどよ、いつまでもそうやって過去“引きずって”生きてくのってどうかと俺は思う。

誰かを失った悲しみとか俺はまだないし、そうでなくともアイツの辛さはわかるわけねえ。

死人に口無しっていうから本当はどうか知らねえけど、少なくとも死んだアイツの弟はアイツにそんな風にいつまでもズルズルメソメソしながら生きて欲しいとは思わねえはずだ。

誰だってバカみたいにはしゃいでバカみたいテニスしてバカみたいに楽しく生きて欲しいと思うじゃん?

そんな簡単なこともわかんねえとか本当馬鹿だぜ、救いようのねえ馬鹿だ!

つーかさっさと弟離れしろっての!!

……長くなって俺も何が言いたいか分かんなくなってきた。

とりあえずアイツのそういうところが一番嫌いだ。







……悪いっスね。なんか八つ当たりみたいになって。

いえいえそんなことはありません。むしろ大変貴重なお話ありがとうございました。

なあ、アンタこれどうすんの?

どうすると言われましても。課題の一貫としてまとめ、提出するつもりですが、プライバシーは必ず守りますし、当然外部に漏れることは一切ありません。

ってことはアイツにも……?

もちろん誰であろうと一切公開しません。

ならいいっすよ。こんなこと聞かれたら肋骨一本じゃ済まされねえだろうしな。

大変ですね。

別に。

それではこれで終わらせていただきます。

あ? こんだけでいいの?

ええ。以上ですべて質問は終わりました。

ふーん。んじゃ、俺このあと先輩たちとゲーセンいくんで。

はい、お疲れ様でした。



[ 7/21 ]

[prev] [next]
[栞を挟む]
back




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -