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趣味友達Fの証言


ん? ああ、君だね。あの子のこと嗅ぎまわっているっていうのは。

ま、まだ二人目だというのにずいぶん情報が早いんですね。

ふふっ。知り合いにそういう情報通がいるからね。

そうですか。しかし『嗅ぎまわっている』とは聞き捨てなりませんね。

でもあの子について調べてることに変わりはないでしょ?

そうですね。ある程度ご存知なら始めてもよろしいでしょうか?

いいよ。時間短縮のために最初の質問は省いていいから。

それはありがたい。


Q2.彼女とのご関係は?


端的に言えば、趣味仲間かな。

どのような趣味ですか?

テニスだよ。ほら大学の近くに市営のテニスコートがあるでしょ? たまにそこで打ち合ってるんだ。


Q3.彼女との出会いは?


あれ、最近の出来事じゃないの?

先手を打たれていたので変化球を。

そう来るか。ま、いいよ。彼女との出会いもそのテニスコートだったね。







初めて話したのは彼女が入学する前の春。

『話した』っていうのはもともと彼女のことは一方的に知ってたから。

彼女、そこのテニスコートでは有名人だからね。

同性だけでなく、大抵の男性でも顔負けの実力派プレイヤーなんだよ。

だから僕も彼女のことは知ってたのさ。

それで僕は大学に行く前に軽く壁打ちしていこうと思って立ち寄ったら彼女と誰かが言い争う声が聞こえてきた。

見るからに柄の悪そうな成人男性2人と中学生数人を彼らから守るように対峙する彼女がいた。

口論の理由はものすごく単純で中学生グループが順番を待って入ろうとしたところ、男たちが乱入してきたから。

正直あそこまで時代遅れな人種がいるとは思わなかったよ。

彼女はいつも「面倒事はごめんだ」が口癖でそういうのは避けるタイプに見えるけど、実は逆。

口ではそう言ってるけど、結構正義感強くて、曰く「間に入らずにはいられなかった」そうだよ。

無関係者で相手に物怖じしない彼女の態度が相手の逆鱗に触れて激情。

と、そこでようやく僕が登場。

言っておくけど、それまでずっと傍観者を気取ってたわけじゃないよ、そこのところ勘違いしないでね。

振り下ろされた拳を掴むと、後ろから「あ、あんた……」って驚いてた。

これはあとから聞いたけど、僕が彼女を知っていたように彼女もまた僕を知っていたんだって。

ここから先の会話があまり気分のいいものじゃなかったからちょっと省略するけど、結果コートの使用権をめぐって僕と彼女がペアを組んでダブルスを行うことになった。

本当ドラマみたいによく出来た展開だよね。

当人の中学生と成人男性じゃ端から勝負は決まってるし、ちょっとやりごたえのありそうな僕らの方が彼らの自尊心を満たしてくれると考えたんじゃないかな。

もっともそっちのほうがどちらに軍配が上がるかなんて火を見るよりも明らかだけど。

あの場において僕らは最強のペアだったと思う。

驕りなんかじゃないさ、確かに僕はそうだと肌で感じたのだから。

ダブルスのペアとはいえ、彼女と同じコートになって改めて彼女の凄さを知った。

個の実力派言わずもがな、初めて組んだとは思えないほど動きやすかった。

ああ、もちろん完璧息が合ったわけじゃないけど、相手を完膚なきまでに叩きのめすには十分すぎたね。

余裕だった表情があっという間に青ざめていく様は面白かったよ。

え? いい性格してるって?

ふふっ、今は気分がいいから褒め言葉として受け取っておくよ、次はないから。

決定打は彼女のドロップ。

勝敗は目に見えていたけど、大人のプライドでそれを拾うも上がったのは見ていた中学生達でもスマッシュが打てそうな無防備なボール。

そしてここぞとばかり僕がスマッシュを決め、試合終了。

彼らも引き際は心得てたようでそそくさと帰っていった。

感謝される彼女は嬉しそうに照れてたよ。

最初にも言ったけど、彼女って普段ツンツンしてて近寄りがたいイメージが強いんだけど、本当はそんなことはないんだ。

僕はスポーツとか芸術作品みたいに言葉を必要としないものにその人の本性って一番強く現れると考えてる。

ボールを追いかけてるときの彼女は普段絶対に見れないような楽しくて嬉しそうな顔をしていた。

それまで無愛想な彼女しか知らなかった僕には衝撃的だったね。

一件落着、壁打ちはできなかったけど、それ以上のことができたから大学へ行こうとしたら彼女の方から声をかけてきた。

さて、なんて言ったかわかるかい?


「ま、巻き込んで悪かった」


さっきまであんなに楽しそうな表情が一転して申し訳なさそうに言ったんだ。

あまりに場違いな言葉にちょっとイラッときたから思わずデコピンしちゃった。


「悪いけど、僕は巻き込まれたんじゃない。僕は僕の意志で動いたんだ。だからその謝罪は間違ってる」


そういうと彼女は何とも言えない表情を浮かべた。


「それじゃあここで君に問題。悪いことをしたら『ごめんなさい』、じゃあ助けてもらったときは?」


数秒沈黙したあと、


「ありがと」







そのあと? 悪いけど授業の時間が迫っていたからそれで終わりだよ。あとになって名前ぐらい聞いておけばよかったなって思ったけど、彼女が入学してきたからね。僕が年上だったとわかると顔面蒼白にしてた。これまた意外かもしれないけど、彼女上下関係は結構しっかりしてるんだ。

なるほど。お話を聞く限り、意外性が多い人なんですね。

そ。誤解されがちだけど、実はすごくいい子なんだ。

それでは最後の質問に移ってもよろしでしょうか?

ようやく本題ってわけだね。



Q4.彼女のことが好きですか?


もちろん好きだよ。あんな面白い子なかなかいないからね・

それは――。

ああ、どの好きかは君は判断してね。それじゃあ僕は次の授業があるから。



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