救われました。


五時間目の授業が終わっても銀髪のチョロ毛の人はまだまだここに居座るみたいだった。

変人の相手はこれ以上の御免だ。

というわけでタイミングを見計らってこっそり屋上から出る。

さすがに最後は出ておかないと識の奴、怒るだろうしなあ。

屋上からの帰り道なのでひと気の少ない廊下を歩く。

教室に直行しようと思ったけど、途中喉が渇いたため、自販機を探して寄り道。


「お、ラッキー」


案外、簡単に見つかった。

先客がいるが、一人だけだったので、まあ待つことにする。

待っている間暇だからとりあえず人間観察なるものをしてみることにした。

外人譲りの健康的な小麦肌にツルツルのスキンヘッドがすごく特徴的だ。

背も高いし、たぶん上級生だと思う。

しかし、何というか……ものすごく煮玉子っぽい。

まあ口が裂けてもそんなことは言わないけどさ、どうみてもこれはおでんで出汁の染みた玉子だよな。

たぶん一ヶ月は忘れないと思う、たぶん。

それぐらい第一印象が強烈だ。

それにしてもこの学校は留学生も受け入れてるんだなーと思っていると、


「あ、」


煮玉子さん(仮称)後ろにオレがいた事に気がつくと、すぐにボタンを押して落ちてきたジュースを取って自販機の前を譲った。


「待たせて悪かったな」

「いーえー。そんな待ってないですしー」


と、挨拶して小銭を入れる。

ぷしゅっと背後で炭酸が抜ける音を聞きながら何を選ぼうか品定めする。

オレンジジュース、水、コーラ、ソーダなどなど、わりと種類が豊富だ。

無難にソーダでも、と思ったとき、前髪がいい感じに鼻に当たり、


「ぶ、ぶ、ぶえっくしゅううっん!!!」


ピッ。


「あ、」


がちゃん。


くしゃみの反動でボタンを押してしまったらしい。

恐る恐る押したボタンを見ると、


「うげええええっ、マジカヨ」


この自販機で唯一飲めないジンジャーエールだった。


「前言撤回。やっぱついてねえわー。よりによってジンジャーエールとかマジないわー……。はあ……」


手にしたジンジャーエールのロゴを見ながら溜息を吐く。

これだけは。

これだけがダメなんだ。

ジンジャーエールを作った人は何故野菜と炭酸を合わせようと思ったんだ!?

……しかし買ってしまったものは戻せないし、識にあげようにもあいつ炭酸自体飲めないし。


「なあ、」


どうしようかと迷っていると、先ほどの煮玉子さん(仮称)が声をかけてきた。


「んあ?」

「開けちまったけどまだ口つけてないし、その、よかったら俺のファンタグレープと交換しないか?」

「なん、だと……?」


その時オレにピシャアアアアと衝撃が走った。

未だかつてこんなに優しい人がいただろうか、いやいない。

完全に石化しているオレを見て「ああやっぱ嫌だよな? 悪い」と気まずそうにする彼だが、


「是非とも交換してくださいいいいいいいい!!」


神って案外身近にいるもんだな。





「ぷはー。やっぱファンタだよなあ」

「ジンジャーエールも結構美味いんだけどな」

「いやーオレは生姜をジュースにするっていう発想から無理なんで」

「そうか?」


壁に寄りかかりながらお互いジュースを流し込む。

見た目の強烈さに対してこの人めっちゃいい人だった。

この恩は忘れないようにしたい。

心からそう思うぐらいオレは感謝している。

いや、だってせっかく買ったのを捨てるには勿体無いし、新しいの買うには野口さん崩さないといけなかったし、正直かなりピンチだった。


「オレとしてはノーベル平和賞あげたいぐらいだわー」

「いくらなんでもそれは大袈裟すぎるだろ」

「いやいやそれぐらい命の危機に直面してたってこと」


本当、煮玉子とか言ってすみませんでした、煮玉子の神様。


「というか初対面なのに、よく助けてくれましたねー?」

「ん? 困ってたら助け合うもんだろ?」


当然だろう? という表情を浮かべる煮玉子さん(仮称)。

……何この人、善人過ぎて辛い。

純日本人のオレよりも日本人精神に溢れてるわ。

きっといい人過ぎてパシられたり、色々苦労してるんだろうなあ。


「どこかの海藻類も見習って欲しいぐらいだな……」

「ん? 海藻類?」

「ああ、いやなんでもないっす。こっちの話なんで」


先に飲み干した煮玉子さん(仮称)は「それじゃあな」と手を振りながら去っていった。

喉も潤ってルンルン気分で教室に戻ったら識に「サボりすぎ」と夕飯抜き宣言された。

そりゃないぜ!!

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