勝負しました。


それは奇跡と例えと良いほど、迷うことなく無事に15分前に学校に戻ってきた有梨は識とも合流。

今回は識があらかじめ下見していたため、そこは迷うことなくテニスコートに行くことができた。

部活そのものもは終わっているのか、コートに人影は一つしかない。


「来やがったな」


もちろん切原だ。


「逃げずに来たことだけは評価してやる」

「そりゃこっちのセリフだ、わかめ頭が」

「ああ? てめえ今なんつった?」


不良顔負けのガンを飛ばし合う二人は一触即発の雰囲気を醸し出している。

識はというと本日何度目かのため息を吐いて、仲裁に入った。


「はいはい二人のやる気はわかったからやるならコート上でやりなさい」


コートの周りも閑散としており、部活帰りの生徒が数人いる程度だ。

さっそく二人はコートに入り、軽く素振りを始める。


「……」


隙をついてちらりとお互いが盗み見る。

大見得切った割りにはフォームはしっかりしているなと思うことまで一緒だ。

識はというとコートには入らず、コートの外で見学。

勝負の行方など始めから興味ないようで、今日の夕飯どうしようかと悩んでいた。

すると、後ろから声をかけられる。


「やあ。またあったね」


聞き覚えのある声に識が振り返る。


「あ。……朝の方ですよね?」


今朝職員室まで案内してくれた彼がいた。

「その節はお世話になりました」と頭を下げれば、「どういたしまして」とふわりと彼は笑った


「まさか赤也の対戦相手が君たちだなんて思ってもみなかったよ」

「すみません、勝手に」

「気にしないで。聞いた話だとこっちにも非はあるみたいだし」


彼は気遣ってくれているが、実質ここまで事態を悪化させてしまった識はどうも居心地が悪かった。


「精市」

「あ、蓮二」


次に現れたのはノートを片手にぱっつんと綺麗に前髪を揃えた男子。

精市と呼ばれた彼に何か話そうとしたが、識の存在を確認すると「誰だ?」という視線を彼に送った。


「ああ、朝言ってた子だよ。赤也の対戦相手の付き添いで来てるんだ」

「……どうも」


軽く会釈すると、彼は「……ふむ」とだけ言って持っていたノートを開くと何か書き始めた。

妙な威圧感を感じて識はバレないように一歩彼らから離れる。

一方、コートではサーブ権をめぐって公平にジャンケンをしていた。

勝者は切原。


「ぶっ潰してやるよ」

「やれるもんならやってみな」


バチッと火花を散らし、両者ベースラインまで下がる。

切原はボールを二、三回バウンドさせてから高く上げた。


「喰らえっ!!」


切原の渾身のサーブが#有美#の横をすり抜け、サービスエースが決まった。

ガシャンと後ろのフェンスが鳴る。


「うっしゃあ!」


と、先制点を取った切原はガッツポーズをする。

一方有梨は、サーブは平均よりちょっと早いぐらいかと冷静に分析する。


「怖気ついたかァ?」

「ほざけ。さっさと次打てよ」


再び切原から鋭いサーブが打ち込まれる。

さっきは様子見だったが、今度はしっかりとボールを捉える。


「甘く見んなよ!」


切原のサーブに負けず劣らずの力で返すと、今度は彼の横をすり抜けていった。


「15-15」


女子とは思えないボールに驚愕を隠せない切腹にやりと有梨は笑った。





最初こそ切原のリードで進んでいたが、彼が1セットとったところで流れは大きく変わった。

気がつけばあれよあれよという間に追いつかれ、挙げ句の果てに最終セットではまさかの無得点でマッチポイントを迎えていた。


「終わったな」


ノートの彼が静かに言った。

試合の最後は明らかに動揺し、焦っている切原にミスを誘わせ、有梨は止めと言わんばかりに今日最速のスマッシュを放つ。


「ゲームセット、ウォンバイ七森!」


審判の声がコートに響いた。


「……勝った」


からんとラケットが有梨の手から抜け落ち、それと同時に崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。


「あー……あー……」

「はい、お疲れ」


見上げれば、スポーツドリンクを差し出す識がいた。


「……おう。さん、きゅ」


それを受け取ると勢いよく喉に流し込む。

少しぬるくなっていたが、オーバーヒート寸前の体には十分な冷たさを持っていた。

夢中になってドリンクを飲む#有美#を他所に識は切原の方を見る。

彼の方には識の隣にいた二人がお疲れの意味を込めてタオルの上からかけてわしゃわしゃと頭をかき回していた。

わずかに涙を流しているのが見えたような気がした。


「ほら、一息ついたんならさっさと帰るわよ」

「えー……もうちょっと休ませろよー」


駄々をこねる有梨を無理やり立たせる。

コートを出ようとすると、「ちょっと待って」と引き止められた。


「ほら、赤也。何か言うことあるんだろ?」


タオルをかぶって下を向いているので表情は見えない。


「……八つ当たりして悪かったな」


彼の言葉に有梨は瞠目するも、


「……おう。こっちも何も知らずに馬鹿にして悪かった」


と素直に謝り、二人はテニスコートを後にした。

こうして決闘の軍配は有梨にあがった。

back





「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -