試験


「くっそおー!!」


顔を真っ赤に怒りをあらわにする燐。

というのも、


「まさか……抜き打ち試験だったなんてな……」


燐とは対照的に沈んだ声で勝呂君が言う。

そうさっきの屍の襲撃は不慮の事態に見せかけた候補生認定試験だった。

なんとか屍を倒したあと、奥村先生と綴が駆けつけてきたと思えば、いきなり天井から理事長だったり、湯之川先生をはじめとする講師の人たちが床とか押入れとか次々と出てきた。

唖然とするあたしたちに理事長が愉快そうに説明。

そのときようやく、今さっきの出来事が巧妙に仕組まれたものなのだと知った。

手当てをする綴がすごく申し訳そうな顔をしていたから、たぶん綴もそっち側だったと思う(まあ助手ではあるが講師であることに変わりはないから当然といえば当然なんだろうけど)。


「ああクソッ! 思い出しただけでも腹が立つ!!」


まだ怒りが収まらない燐だけど、それは無理もない。

でも今は怒る気力もないのが正直なところ。

はあー心身ともに疲れた……。


「ああ〜僕、大丈夫やろか……」


三輪君が頭を抱えながら呟いた。


「なんや、そんなもん今考えてもしょーもないで」

「坊や志摩さんはええですよ! ……僕と来たらろくに腰立たんようになってたんですから……」


それはあたしもそうだ。

部屋から出るときなんか綴に支えてもらわないと歩けないぐらいだったし。

すると、神木さんが直前に奥村先生が言っていた言葉を引用しながら三輪君をフォローした。

だけど、苦虫を潰したようにこう言った。


「……それでいうとあたしは最低だけどね」

「そんなことないと思うよ。神木さんのおかげで屍の動きを止めてトドメを刺すことができたんだし、大活躍じゃん! それに使い魔だってちゃんということ聞いてくれてたしさ」


それに比べてあたしは……。

凍月に拒否されて何の力にもなれなかった。

凍月本当にあたしが召喚したんだよね? マスターなんだよね?

襲ってこないということは多少安心してもいいような気がするけど、実践においてはただの役立たずだ。


「ははっ……はははっ……」

「奏ちゃん、しっかりぃー。しっかりぃー……って、アカン。完全に目が死んではる」


「立花もまだ全然マシやろ。問題はあいつらや。完全に外野決め込んどったぞ。なんか言うことないんかお前ら!! え!?」


ガンを飛ばす勝呂君の先には山田君と宝君がいた。

ところが山田君はゲームに夢中で、宝君はいつも身につけているパペットで「うるせえ」と言った。

ますます顔が怖くなる勝呂君。

勝呂君はああ言ってくれたけど、本当に自信がない。


「ん……」

「あ、しえみちゃん!」


しえみちゃんがゆっくりと起き上がる。


「しえみちゃん、どう? 気分悪いとかない?」

「うん、大丈夫だよ。だいぶ元気になったしね。ふ、ふああ」


まだちょっと眠たそうだけど、顔色は良さそうだし、大丈夫かな。


「みんな何のお話してるの?」

「さっきの試験についてだよ」


クエスチョンマークを浮かべるしえみちゃんにそういえば彼女は途中から意識が朦朧としていてあれが試験だったことを知らない。

かいつまんで説明すると、「え、そうだったの!?」と飛び上がるぐらい驚いた。


「一番の功労者は杜山さんやな」

「うんうん。勝呂君も神木さんもすごかったけど、MVPはしえみちゃんに決まりだね」


誰もが状況についていけず、呆然としていた時、真っ先にしえみちゃんが行動に出た。

あの時しえみちゃんがいなかったらきっと全滅していたに違いない。

しえみちゃんとニーちゃんの連携にちくりと胸が痛んだ。

何もできなかった自分が情けないし、悔しい。

律儀に頭を下げてお礼を言う勝呂君を見ながらそう思った。


「あ、あの奏ちゃん? 顔色悪いけど、奏ちゃんのほうが具合悪いんじゃない?」

「え? そんなことないよ。大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」


と、ここでしえみちゃんの顔が起きた時より赤いことに気がついた。

するとさらに赤くなりながら小さな声でこう言った。


「あ、あのね、なんだか嬉しいなって。こんなどんくさいわたしでも誰かの、ううん、みんなの役に立てたんだって思うとすごく嬉しいの!」


えへへ、と少し眉を下げながら笑うしえみちゃん。


「……うじうじしてても何も変わらないよね」

「え?」

「何でもないよ。あたしもしえみちゃんみたいになりたいなあって」

「な、なんで!? わたしそんなできた人じゃないよ!?」

「そんなことないって! しえみちゃんみてたらなんだかやる気が湧いてきたし、あたしも負けないように頑張ろっと!」


まだ始まったばかりだし、諦めるにはまだ早いよね。


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