襲撃


数日後

ついに候補生の認定試験にむけての強化合宿の日が来た

場所は燐、雪男、奏、綴が住んでいる高等部男子寮旧館である

四人は玄関の前で皆が到着するのを待った


「……完璧にパシられてんだろ」

「だよねえ……」


燐と奏はここ数日のしえみと神木の様子を見ていて思ったことを言った

対する雪男と綴は「え?」と聞き返す


「パシられてる? 誰がだ?」

「ああ、気にしないで。こっちの話だから」


なんでもないように振舞う奏だが、本当にこのままでいいのだろうかと考える

確かにしえみに新しい友達ができるということはいいことだが、あれはどう見てもただのパシリだ

このままあたたかく見守るべきか否か……

そんな風に悩んでいると、ほかの塾生たちがやってきた


「うわなんやコレ幽霊ホテルみたいや!」

「あはは、志摩くんうまいこと言うね」

「え、奏ちゃんこないなところに住んどるん!?」

「住めば都だよ」


志摩は神経が図太すぎるやろと思ったり

そして燐と奏が心配していた二人も来た


「ヤダなにココ気味悪〜い! ……もうちょっとマシなとこないの? あ、コレお願い」


と、もう日常と化した神木の人任せ

しえみはいつも通りニコニコした表情で荷物を受け取った

それを見ていた朴はしえみに「嫌なら嫌と言わないと」と注意するも、しえみは人の役に立てるのが嬉しいと笑顔で返した

そう言われ、朴はもう何も言えなくなってしまった


「ねえ……やっぱりこれは」

「ああ、やばいな」


鈍すぎるしえみに燐と奏はひっそりとため息をついた




「……時間だ。プリントを裏紙にて回して」


綴は持っていた懐中時計を見て小テスト終了の合図を告げた

本日の授業は終了、起床は六時など雪男が業務報告をする


「ちょ……ちょっとボク夜風にあたってくる」


すっかり頭をやられて燐は一人称が混乱してボクになっている

燐だけではなくほかの勝呂たちも疲れがピークに達していた


「朴、お風呂入りにいこっ」


神木、朴、そして遠慮がちにしえみが風呂へ行くのを見て志摩がこう言った


「うはは、女子風呂か〜。ええな〜。こら覗いとかなあかんのやないですかね? 合宿ってそういう楽しみ付きもんでしょ」


と今日もエロ魔人は健在のようだ

そのエロ魔人発言を受けて勝呂が一言


「志摩!! お前、仮にも坊主やろ!」

「そんなん言うて二人とも興味あるくせに〜」


いかにも健全な男子高校生の会話かと思いきや、


「……一応ここに教師がいるのをお忘れなく」


一瞬、この部屋から音が消えた


「教師いうたってアンタ結局高1やろ? ムリしなはんな?」

「僕は無謀な冒険はしない主義なんで」


そう言って無表情で雪男はくいっと眼鏡を上げた


「……えー、一応まだ女子がここにいるんだけど」


再び無言、そういえば奏と綴はまだ行っていなかった

ちなみに綴は雪男の言葉に無謀じゃなければするのか……と心の中で突っ込んだ


「志摩くんってそういう人種だったんだね……」

「ちょっ、そんなえげつない目で見んといて!!」

「いや、まあわかってたけど」


至極真面目な顔で志摩を見つめる奏はこの上なく攻撃力が高かったとか


「それじゃあ奥村先生。私は少し休む」

「あ、はい。最條先生もお疲れさまでした」


付き合ってられんと綴が部屋を出ていこうとすると、「待ってください」と勝呂が引き止めた


「なにか?」

「あ、明日の朝でいいんで、質問しに行ってもええですか……?」


勉強熱心だなあと思いながら綴は二つ返事をした

その時だった

遠くの方からだが、確かに誰かの悲鳴が聞こえきた


「この声、朴さん!?」

「なんだって!?」


一同騒然とする中、雪男はいち早く動き、悲鳴のもとへ向かった


「一体何が起こっているんだ……!?」


女湯に駆けつけたとき、すでにあたりはガラス片が散乱しており、浴場では燐が屍に襲われていた

雪男は迷わず携帯していた銃を数発放つ

すると屍はあっけなくしっぽを巻いて逃げた


「私が追う。奥村は生徒の手当を」


雪男が指示を出すまでもなく、綴が屍が出たところからそのあとを追う

後ろから誰かが「うわ、ジャンプ力有り得なっ!」とか聞こえたが綴は華麗に無視した

しえみのとっさの応急措置のおかげで一命は取り留めた

皆が朴の心配する中、奏は神木の姿が見えないことに気づく

すると皆の輪から離れ、あたりを見渡すと神木はロッカーの影に隠れるようにうずくまっており、その顔には大粒の涙がこぼれ落ちていた


「か、神木さ――」

「くやしい」

「え?」

「こんな姿……誰にも見せられない」

「神木さん……」


泣きじゃくる神木を前に奏は普段の勝気な彼女とのギャップに驚くも、大切な友達のために何もできなかったことを考えると無意識に握る手に力が入った

すると、いつの間にか隣にいた燐がTシャツを脱ぎ、神木に投げつけた


「それ着て早く行け!」


――――――

――――

――


意外と身軽に壁を登っていく屍に綴は苦い顔をしながら非常用階段を登っていく

その気になればあの程度の屍の祓魔など造作もないが、あれが誰かの手によるものならば、そこへわざわざ導いてくれるのであれば殺すわけにはいかない

ある程度追ったところで屍の進行ルートを予測し、先回りした

その屋上にいた、おそらく屍を仕向けた人物に綴は目を細めた


「……ネイガウス先生」

「その声は、最條か」


身内だろうと、油断せずに綴は双剣を構えた

何故彼が? とは思わない

屍を見たとき、なんとなく彼の仕業だと思ったからだ


「そう身構えるな。何も俺はお前とやり合おうとは考えていない」


そう言われても綴は構えを解こうとしなかった


「ふっ。悪魔の犬に成り下がった祓魔師(オレ)を嗤うか?」


自嘲気味に笑うネイガウスに


「まさか、あいつが?」


嫌な予感はしていたが、あのピエロが仕組んだのか……と苦い顔をする


「そういうことだ。むやみに手を出さないことだな」


そう言ってネイガウスは屍とともに暗闇に消えた

闇夜に一人残された綴はこうつぶやいた


「波乱の幕開けというところか……」


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