野望


実技の時間では燐と勝呂の意地の張り合いが行われていた

それを高みの見物と言わんばかりに奏をはじめ、他の塾生は上の安全地帯から見ている


「燐もすごいけど、それについてく勝呂くんって本当すごいね」


体育座りの奏は隣にいた志摩に話しかけた


「こっちも吃驚や。あの坊より速いなんてアイツなにもんやねん」

「あはっ、あたし的には志摩くんが祓魔塾にいるのも吃驚なんだけど」

「奏ちゃんってば意外に辛口!」

「あ、何か危なくなってきたよ」


ううっと泣くフリを志摩を奏は華麗にスルー

気が付けば燐と勝呂の2人は講師の話を無視して喧嘩を始める始末


「何なんだネ、キミタチは!?」


講師が燐を、志摩たちが勝呂を、と、またどこかでみたことあるような光景である


「勝呂クン! こっちに来てくれタマエ」


そして何故か勝呂だけが先生に呼ばれた


「つーか何なんだアイツ……」

「すごいね……」

「はは……かんにんなあ」

「あ、志摩くん、復活早いね」

「やっぱり奏ちゃんは辛口や……」


苦笑いしかできない志摩


「坊はああみえてクソ真面目すぎて融通きかんとこあってあなあ。ごっつい野望もって野望入学しはったから」

「野望?」


燐と奏の声がそろった


「まああれだけすごいから何かあるとは思ってたけど。それで? その野望ってなんなの?」


奏がぐいぐいっと志摩に寄る


「坊はね、『サタン倒したい』いうて祓魔師目指してはるんよ」


これまた衝撃的な野望に燐の目が見開いた

燐の野望ともろ被りだ


「うわあお! それはまた大層な野望だね?」

「やろ? 笑うやろ?」

「志摩さん、言うなんて」


と、志摩を注意したのはいつも一緒にいる坊主で眼鏡の男子生徒だ

彼の話曰く、『青い夜』で落ちぶれてしまった勝呂の実家である寺を再興しようとしているらしい

それに対して燐は「『青い夜』ってなんだ?」と聞いた

一瞬だけ、奏の目が細くなる


――青い夜


十六年前、ゲヘナ界の最高位に立つサタンが世界中の有力な聖職者が大量虐殺された日のこと

勝呂が物心付く頃には寺はもう廃れてしまっていたらしい


「あー戻ってきはったわ」

「あ、ホントだ」


さあ、授業再開かと思われたが、いきなり講師の急用(ハニーからの電話により)休憩となった

そして講師がいなくなったあとまた燐と勝呂の喧嘩が勃発


「よく懲りないね……」

「ほんま、坊ってば負けず嫌いなんやから」


何やら今度はリーバーを使って度胸試しをするらしい

喧嘩っ早い燐だから勝呂の誘いに乗るかと思いきや、そんなことはなかった


「間違って死んだらどーすんだ。バッカじゃねーの?」

「……なっ」

「俺にもお前と同じ野望があるしな。こんなくだらないことで死んでらんねーんだ」


同じ野望という言葉に反応する勝呂


「お前ら言うたな……!」

「いやあ」


と声をそろえる二人


「何が野望や……お前のはビビッただけやろうが!!」


勝呂の頭の中でまだ幼い頃の記憶が駆け巡る


「何で、何で戦わん……くやしくないんか!!! 俺はやったる! お前はそこで見とれ腰抜け!」

「おい……やめとけ!」

「坊!」

「勝呂くんやめなって!!」


周りが止めるも勝呂の決意は固かった

皆が見守る中、勝呂はリーバーの前にでる


「俺は……俺は、サタンを倒す」


ふと女子生徒の一人が笑い出した


「プッ、プハハハハハハッ!ちょっと、サタンを倒すとか! あはは! 子供じゃあるまいし」


彼女の笑い声に勝呂の心に一瞬の乱れができた

しまった! と思ったときにはすでに遅く、リーバーが勝呂に襲い掛かる

ところが、リーバーに食われたのは燐のほうだった


「燐っ!」


しえみの悲痛な叫びが響く

燐と数秒にらみ合ったリーバーは何故か大人しく、彼を放した

一瞬、青い光を瞳に宿して


「……何やってんだ。バカかてめーは! いいか? よーく聞け!」


一呼吸おいてから燐は言う


「サタン倒すのはこの俺だ! てめーはすっこんでろ!」

「は!? な、なな、なん……バ、バカはてめーやろ! 死んだらどーするんや! つーか人の野望パクんな!!」

「パクってねえよ! オリジナルだよ!!」


いつもの調子を取り戻した勝呂は燐に噛み付く



そんなやり取りを雪男は影で銃を構えながら見ていた

幸い、最悪の結末は免れたようで彼の出る幕はなかった


「奥村」


雪男が振り返れば綴がいた


「綴さん」

「奥村燐が心配なのはわかるが、何も言わず消えないでくれ。これでも2人で一組なんだから」

「すみません」

「……それにしても、今のはすごかったな」

「ええ。そうですね……」


どうやら魔人の力というものはそうやすやすと手に入るものではなさそうだと綴は一人ごちた

そしてこの一件以来、勝呂と燐は少し気を許すようになったそうな



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