理由


休み時間、奏は広場で任務帰り、所用で塾に寄っていた綴と話していた


「――ってことがあってね」

「それはそれは、退屈しなさそうだな」


ふふっと笑う綴に奏は「笑い事じゃないんだよ! 本当大変だったんだから」と言った


「それにしても勝呂くんってすごく頭いいんだなあ」

「ふむ。あまり詳しいことは知らないが、奥村……あ、弟のほうな。と一緒な特進科らしい」

「え、マジっ!? 普通の勉強のほうでも頭いいんだ!?」


目を丸くする奏

また確かに、見た目からしていかにも不良に見える

だが、人は見かけによらずとも言う


「あとは京都の由緒あるお寺の跡継ぎでもあるそうだ」

「へえ。お寺さんの跡継ぎさんなんだあ」


ポケットから棒付きキャンディを取り出すと、包装を取り払い、口に入れる


「でもわざわざ京都から祓魔師になるためにこっちに来たんだよね? 授業のときも言ってたけど、本気で祓魔師になりたいみたい」

「奏も少しは見習ったらどうだ?」

「酷いっ! あたしは燐と違ってちゃんと頑張ってるのに!!」


奏はぷうっと頬を膨らませた


「ところで、奏はまたなんでいきなり祓魔師になりたいと思ったんだ? ……昔はあんなに嫌っていたじゃないか」


不意を突かれた奏は危うく飴を落としそうになった

そう、奏は燐と出会う以前から悪魔、そして祓魔師のことを知っていたのだ


「……あのね、あたしもいい加減前を向かなきゃなって思って」


そういうと飴を口から出し、上を見て続けた


「燐を見てて思ったんだ。このままじゃいけないって。もちろん今でも悪魔も祓魔師も嫌いだよ? でも、あたしを捨ててまで夢中になった祓魔師ってものを知らないと、って思ったんだ。物事は同じ土俵に立ってから言え、みたいな? もしかしたら、誰かお父さんとお母さんを知ってる人がいて、あたしを捨てた本当の理由がわかるかもしれないからね」


空を見上げる奏はどこか遠い目をしていた


「……そうか」


綴は自分で聞いておいて少し後悔した

奏にまた辛い思いをさせてしまったと

2人の間に微妙な沈黙が流れる


「ところで綴は何で祓魔師になろうと思ったの?」

「私か? 私は――」


そのとき、まるでタイミングを見計らったように休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴った


「やっば! 次、実技だった!!」


慌てて立ち上がると、「また今度話してね! じゃあね!」と奏はそのまま立ち去ってしまった

残された綴は奏の姿を、完全に見えなくなった後も見続けた


「いやあ、実に泣けるお話ですねえ。美しき友情哉」

「メフィストか」


いつの間にか綴の背後にはメフィストがいた


「立ち聞きとはまた趣味が悪いぞ」


綴は振り返らずに言う


「まあまあ。そう怒らずとも」

「いっぺん死ね」


そうはき捨てると綴はメフィストを無視して歩き始めた


「言わなくていいんですかあ? 彼女に祓魔師になった理由を」


ぴたりと綴は足を止めた

そしてそこでようやくゆっくり振り向くと、


「今更何を言えと?」

「おやおや、大切な――」


茶化すメフィストの頬を一筋の光がかすった

彼を睨む綴の手には愛用の弓が握られている


「これ以上知った口を利くな。次は脳天ぶち抜くぞ」


綴の目にはおぞましいほどの殺気が満ち溢れていた

ふんっと鼻を鳴らすと綴は次の任務があると言って去っていった

誰もいなくなった中庭

聞こえるのは噴水の静かな水の音のみ

その中でメフィストはにやりと笑うと


「……実に飼いならしがいのある駒だ」


ぱちんっ

誰に言うわけでもなく消えた


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