授業風景


「――で、あるからして……ん?」


黒板を指差しつつ、教科書を片手に説明する講師の手が止まった

講師の視線をいち早く察知した奏は隣で心地よく寝ている燐を見た


「燐、燐」


小声で起こすことを試みても、効果なし

奏が起こす前に講師が近寄ってくる

こりゃだめだなとあきらめた奏は燐に心の中で謝りつつ、同情した


「奥村くん、奥村くん」


講師が語尾を強めて起こそうとすると、


「スキヤキ!?」


と、意味不明な言葉を口にして燐は起きた

隣にいたしえみが地味にびくりと肩を上げた


「……ス、スンマセン」


後ろの席からくすくすと笑い声が聞こえてきたが、他にも


「なんや、アイツ……何しに来てん」


どすの効いた声に講師の隙を狙って燐と奏が振り返ると、同じ塾生の一人、髪の一部を金髪で染めた男子生徒がすごい形相で燐を睨んでいた

ぼそりと何か呟いていたが、方言なのか、よく聞きとることはできずじまい

奏はうわあ、何かすごい人に恨まれてるなあ燐とまたも一人同情した


「ねえ、燐。さすがに危ないんじゃあ――」

「……フフフ、すー……」


気が付けば瞬きほどの時間で燐は夢の世界に飛びだっていた


「あちゃー……」


これは睨まれても仕方ないかあ

それもそのはず、燐の授業態度はお世辞にもいいとはいえなかった

例えば悪魔学の時間


「『腐の王』アスタロトの眷属で最下級の悪魔の名前は? 奥村!」

「えっ、あー……えー……見たことないんで、その」

「はあ……、隣の立花!」

「はい、魍魎です」

「正解。ほら、そこらに浮いているだろ!」


と、基本の『き』とも言える質問にも答えられず

グリモア学に至っては、開始五分で夢の世界へ

悪魔薬学のテスト返しに至っては……


「それではこの間の小テストを返します。志摩くん」


と、呼ばれると志摩は間延びした声で立ち、取りに行く


「今回のちょっと危ないんだよなあ……」


と奏


「そう? あたし自信あるよ!」

「そっかしえみちゃんの得意分野だもんね!」

「えへへっ」


などと話していると、杜山さんと雪男がしえみを呼ぶ


「植物にオリジナルの名前をつけるのはいいですが、テストでは正確な名前を覚えて書いてくださいね。それがなければ多分満点だったかと」


渡された紙には41という数字

思わず肩を落とすしえみ


「ぶっはは!? 得意分野なのにな!」


茶化す燐だが、いざ燐のテストが返されると


「胃が痛いよ……」

「……スンマセン」


しえみとは比べ物にならないほど酷い2点だった

頭をかきながら席に戻ると、次に呼ばれた例の部分金髪の生徒、勝呂が燐にこう言った


「2点とか狙ってもようとれんわ。女とチャラチャラしとるからや。ムナクソ悪い……」


と、しえみと奏を一瞥した


「(え、女ってあたし? そんなつもりはなかったんだけどなあ……)」


むうと悩む奏の傍で、雪男が勝呂に何か言っている

そして帰ってきた点数はまさかの98点

まさか過ぎる点数に燐と奏は思わず目が飛び出そうになった


「ばば、ばかな。お前みてーな奴が98点取れるはずが……常識的に考えてありえねえよ」

「なんやと!? 俺はな、祓魔師の資格を得るために本気で塾に勉強しに来たんや!! 塾におんのはみんなまじめに祓魔師目指してはる人だけや。お前みたいな意識低い奴目障りやから早よ出ていけ!!」


正論すぎる勝呂の言葉に燐も一度言葉が詰まるも、何とか言い返す


「お前が授業まともに受けてるとこ見たことないし! いっっつも寝とるやんか!!」


勝呂は友人の志摩ともう一人眼鏡の男子が、燐は雪男と奏が取り押さえる

正論すぎて、むしろ燐の味方であるはずの雪男が「うんうん、正論だ」とか「どんどん言ってくださいね」と煽っている

結局その日の悪魔薬学の授業はここで終わった

ちなみに奏の点数は78と燐としえみが勝呂と似たような意味で驚いていた

本人曰く、「やっぱり八割は駄目だったなあ……」


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