再会と隔たり


「……やばい、あたし、完全に迷った」


始業式が終わった後、簡単なロングホームだけで本日の学校は終わった

そして奏は先日祓魔塾から届いた手紙と鍵を手に塾へ行ったのだが、


「うわああああやばいこれ完全に迷ったよ!? やばいっ! 初日から遅刻とか死亡フラグ

うううううう!」


もともと方向音痴のきらいがあった奏

授業開始予定時刻より一時間も早く来たのだが、それも無駄になってしまった

すると、どこからか人の話し声が聞こえてきた

それに気づいた奏はこの際藁にも縋る思いでその声のする方向へ向かった

扉の横には探していた『一一〇六』と書かれている


「ああ、助かったァ!」


遅れてきてすみませんでしたと誠心誠意謝るつもりで教室へ入ったのだが、


「何で俺に言わねーんだ!!」


男子生徒の怒号とほぼ同時にガチャンッと何かが割れる音が聞こえた


「え……もしかしてあたしのせい?」


中にいた生徒たちが割れた試験管と奏の顔を交互に見る

不味い、遅刻した上になんかとんでもないことをやってしまった……

今なら切腹も辞さない覚悟だ

奏が心の中でごめんなさいすみませんを連発していると、また何の予告もなく天井が崩

れ落ちた


「悪魔!」


女子生徒の一言に教室中が騒然となった


「って、あ、あれ雪男君? 燐も何でいるの!?」


ところが奏はそんなことよりも今目の前にいる2人に驚いた

雪男君はなんか変なコート着てるし、燐なんか正十字学園の制服だ

そして何より驚いたのは


「綴!?」


幼い頃、突然行方不明となった親友がそこにいた

髪の色はすっかり変わってしまっていたが、確かに綴だ

だが当の本人は奏のことに気がついていないようだ

驚愕の色を隠せないでいると今度は銃声が鳴り響いた

雪男が教室の外に避難してくださいと指示を出す


「奥村、わたしも手伝おう」


綴が教室に再び入ろうとしたところを#奏で#は無我夢中でその腕をつかんだ


「綴! ねえ綴でしょ!? あたしだよ昔孤児院で一緒だった奏だよ!」


その言葉に髪の毛で隠れていない左目が大きく開かれた


「……奏?」


何が起こっているのかわからない顔をしている

しかしそう反応したのも一瞬で、何事もなかったように教室に戻ろうとする綴を奏は

そのままの腕を引っ張って廊下を走った

そのとき、誰かが奏ちゃん!? と名前を呼んだが聞こえないフリをする

しばらく走ったあと綴が力ずくで奏の手を振り払った

はあはあとお互いの息が切れる音だけが木霊する


「なんで……」


先に口を開いたのは奏のほうだった


「何で綴がここにいるの!?」


それは悲鳴にも近い怒号だった


「何で綴がこんなところにいるの!? 死んだんじゃなかったの!?」


行方不明と聞かされた後、何の根拠もなく綴は死んだといわれてきた

それが突然こんなところで再会するなんて誰が予想していただろうか

きっと言葉を探しているのだろう

ふいに綴の視界が橙に染まった


「会いたかった……」


その声は先ほどのものとは打って変わり、今にも泣き出しそうな弱弱しいものだった

奏はぎゅうっと綴を抱きしめた

すぐ近くから嗚咽が聞こえてくる


「何も言わなくてもいい。どんな事情があったかあたしはわからないけど、あたしは綴

に会えただけでもういい。……もう会えないんじゃないかと思ってた。よかった、本当よ

かった」


綴のことを何も聞かずにただ会えた事に涙を流す奏

綴は自分は何を怖がってのだろうと、自嘲的な笑みを零し、優しく奏の頭を撫でた


「ごめん、本当ごめん。ごめん……」


だが、綴は知っていた

もう二度と、あの頃のように接することはできないのだと

その夜


「あー疲れたー。塾ってこんなに疲れるものだったんだなあ……」


初日から色々あったものの、なんとかその一日がおわった

塾から寮へ帰宅しようとすると、その玄関に見覚えのある人影が立っているのが見えた


「綴!」

「ああ、やっときたね」


つい先ほど授業で会ったばかりだが、何故かとても懐かしい気がした


「どうしたの? こんなところで」

「実はあのくそピエロ――学園の理事長から奏に報告があって届けに来たんだ」

「わざわざありがとね!」


ピンクの可愛らしい封筒から出てきたのは一枚の便箋とどこかへ通ずる鍵だった

手紙の内容は簡単


「えっと、何々……『残念ながら寮の部屋が満室なので君には悪いですが、別の寮へ移っ

てもらいます☆
 荷物もすでに運んでおきましたのでどうぞご自由にお使いください。

P.S.この手紙を持ってきた綴君と同じ部屋です』だってさ! よかったね! 一緒な部屋

だよ!」


と、奏は喜んだが、綴はというとため息をついていた


「え、そんなにあたしと一緒な部屋がいやなの!?」

「そういうわけじゃないんだけど、なんと言うかいきなりにもほどがある……」


なんとなくだが、「あ、この人に苦労させられてるんだろうな」と思ったのだった


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