追悼A


「それで僕をここに呼んだ理由はなんですか?」


半分ほど飲んだところで雪男は聞いてみた

すると綴は


「いや、特に何もないが?」


ときょとんとした表情で答えた

雪男は思わずコーヒーカップを落としそうになった

そういえばこの人はたまに突拍子も無いことをしたなと思い出す

まあそこまで迷惑なものではないのでそれについてため息が出たことはない


「まあしいて言うならあのまま放って置けるほどお人よしでないということだな」


綴はどこか遠くを見るように黒い水面を見つめた

もしかしたら彼女なりの気遣いかもしれない


「……それにしても泣かないんだな」

「え?」


今度は雪男がきょとんとする番だった


「義父とはいえ、大切に育ててくれた人だろう? 少しぐらい泣いたって罰は当たらないのに」

「神父(とう)さん、いえ神父(ちち)はきっとくよくよ泣いてる僕は見たくないと思ってる」

「そうか? むしろ『なんで俺のために泣いてくれないんだよォ!』っていいそうな気がするけど」

「ぷっ」


確かに言いそうだなと小さく笑う雪男


「でももう、あの日からもう泣かないって決めたんだ」


――あの日から

雪男の脳裏に浮かぶのは守られていたばかりの日々

神父さんに「一緒に戦わないか」といわれたあの日、雪男はもう何があっても泣かないと誓ったのだ

綴を見つめる雪男の目には一切の迷いはなかった


「……そう、か」


それだけ零すと、綴は残りのコーヒーをすずった

そして微かにこういった


「まるで昔の自分を見てるみたいだ」

「え? 今、何か言いましたか?」

「いいんや、ただの独り言。気にしなくてもいい」


綴はごまかすようにもうないはずのコーヒーを飲んだ



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